愚美人
傷心の男に常に寄り添い続けた、愚かしい美人の話

男……作家。一本のみヒット作を出してから鳴かず飛ばず。
女……男を献身的に支える美女。男が欲しい言葉を常にかけてくれる。
友人……男のことを小馬鹿にしがち。口の悪い妻がいる。
大家……家賃滞納している男を何も言うことなく置いている。

舞台上には、
上手舞台袖→(扉があるという設定。往来の際は効果音)
下手舞台袖→(障子があるという設定。往来の際は効果音)
中央   →ちゃぶ台・煙草・灰皿
上手側背後→文机・原稿用紙・万年筆・背の低い箪笥
下手側背後→背の高い本棚・本(背表紙は全て同じもの)・花瓶・花・ハサミ


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男、文机に向かって頭を掻きながら唸る
女、お盆に湯呑みを載せて持って来る

男 「ああ、そこに置いといてくれ」

女、ちゃぶ台の上に湯呑みを置く
男、文机に万年筆を置き、ちゃぶ台の前に座る
女、ちゃぶ台の下手側に座る

男 「茶柱だ」
女 「そうでございますね」
男 「こんな縁起の良いものを飲み干すなんて、何だか勿体無いねえ」
女 「けれど先生?飲み干せば、良いアイデアが浮かぶかも知れませんわよ」
男 「あいであ?」
女 「やだわ、先生。もの書きの種でございますよ」
男 「そうだったかい。いや、横文字はどうも聞き慣れなくって良くない」
女 「ねえ。私(わたくし)、横文字の食べ物を食べに行きたいですわ」
男 「喩えば、何かね」
女 「プリンアラモードなんていかがでしょう」
男 「ぷ……え?何だって?」
女 「プリン」
男 「ぷりん」
女 「ア」
男 「あ」
女 「ラモート」
男 「らもうと」
女 「ふふふ。やだわ、もう。まるで言葉を覚えたての赤ん坊じゃない」

女、男の手の上に手を重ねてゆっくりと撫でる

男 「おいおい。作家相手に言葉を教えるなんて、お前さんも随分偉くなったもんじゃないか」

男、もう片手を重ねようとする

女 「それは、大変失礼致しました」

女、触れる間際で手を引く
男、名残惜しそうに手を見つめながら茶を飲む

女 「それで、その作家先生の次回作の進みは如何でございますか」
男 「……」

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