シュレディンガー
【登場人物】
俊哉(としや)
明美(あけみ)
【本文】
俊哉のモノローグ(M)。(照明:サス)
俊哉M「7歳の時のことです。近所に明美ちゃんという女の子が住んでいました。苗字は宮下で、僕より2つ年上。僕はよく彼女と一緒に遊んでいました」
9歳の明美、出てくる。(照明:ノスタルジー)
俊哉、7歳の頃の俊哉を演じる。
明美「俊哉くん」
俊哉「明美ちゃん!」
俊哉M「僕は彼女のことが大好きでした」
俊哉「ねえねえ明美ちゃん、今日は何して遊ぶ?」
明美「よし、秘密基地に行こう!」
俊哉M「僕らには秘密の遊び場がありました。池のほとりにある、使われなくなった廃屋です。入り口の扉はいつも開いていて、中には何も置いてありません。先生や両親たちには危ないから近づかないよう言われていましたが、大人の警告ほど甘美に聞こえるものです。僕たちは気にしませんでした」
明美「今日はお芝居をします」
俊哉「お芝居?」
明美、俊哉に台本を渡す。
明美「今度、オーディションがあるの。手伝って」
俊哉M「明美ちゃんの夢は女優になること。そのため、よく僕と一緒にお芝居の練習をしていました。オーディションの台本を使うこともあったし、ドラマのセリフを書き起こして真似することもあった」
明美「あと、これつけて」
明美、つけ髭を渡す。
俊哉「彼女はこだわるタイプでした」
俊哉、つけ髭をつける。
明美「『私はできない! 真実がわからないのに、あの人のことを決めつけるなんて、そんなこと許せない!』」
俊哉「『仕方がないんじゃよ』」
明美「『でも……そうよ、私たちの状況ってまさにシュレンディンガーの猫みたいなものよ!』」
俊哉「ねえねえ明美ちゃん。シュレディンガーの猫ってなに?」
明美「え」
俊哉「ほら、今のセリフの」
明美「えっと、え、俊哉くん、そんなことも知らないの?」
俊哉「うん」
明美「全く、俊哉くんは無知だなぁ!」
俊哉「明美ちゃんはわかるの? シュレディンガーの猫」
明美「当然!」
俊哉「すごい!」
明美「こちとらもう4年生だからね」
俊哉「教えて!」
明美「あ、用事思い出した!」
明美、ハケる。
俊哉M「シュレディンガーの猫、とは思考実験の一つです。大きな箱の中に一匹の猫、と毒ガスが噴射される装置を入れます。蓋を閉めると、50%の確率で毒ガスが噴射され、中の猫は死んでしまいます。ただし、毒ガスが噴射されたかどうかは箱の外からは確認できません」
明美、分厚い本を持ってやってくる。
明美、本を読みながらシュレディンガーの猫を頑張って解説。
明美「つまり、箱を開くまでは、猫が生きているか死んでいるかはわからないよね?」
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