アレキサンドライト
―春の香 夢の龍―

                 アレキサンドライト
                ――春の香 夢の龍――

      ――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――


           少女 / 男 / 両班 / 子分
           行商人 / 翁 / 女


      ――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――

      17世紀の朝鮮半島。
      両班―リャンバン―と呼ばれる、支配者階級の不正を摘発するために
      地方に派遣されて隠密捜査を行う、特殊な官職が実在した。
      王にその官職へ任命された者は、帰宅する事すら許されず
      その足で直ちに都を離れ、正体を隠して任地へと赴いた。
      暗闇を行く王の隠密派遣使。
      彼らは、暗行御使――アメンオサ――、と呼ばれた。

      ――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――





一――はじまりの始まり




       暗闇を静かに照らす緑色の光。

少女   いつか、夢の中で見た光景。わたしの記憶の中に、いつからか眠っていた光景。
     美しい竜が、光の中を駆けてゆく。緑色の光が、溢れるように視界を埋める。
     わたしはその中で、たった一人歩き出す。
     絶望の淵を満たす光の螺旋。遠くから、わたしを呼んでいる、声がきこえた。
     夢は果てしない光を差し伸べ、空を舞う龍に触れようとして手を伸ばした時、いつも、
     わたしは夢から醒める。一体これが何を暗示しているのかは分からないけれど、
     どうしてだろう、一つだけわかっていた。
     絶望も孤独も、夢の中を駆けるその龍を止めることは出来ない。
     これは、いつかわたしが出会う光景だ。


       空間は紅く染まる。紅い刀を翻して、飛び込んでゆく少女。
       迎えうつ男達を斬ってゆく。館の中、一番奥まで。
       そして、標的の両班に刀を突きつける。

標的の男 な、何者だ! 何故わしを
少女   『何故』? そんな事は知らない
標的の男 知らない?
少女   頼まれた
標的の男 お前…! 金で買われたのか? な、何でもやるぞ。お前、そいつに幾ら貰った?
     わしはその二倍、いや三倍、幾らでも払おう。何でも好きなだけやる、だから助けてくれ…
少女   ……
標的の男 何が望みだ? 金か? なあ、何でもしてやるぞ!

       悲鳴。
       両班を切り捨てる少女。
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