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登場人物  
     少女  いつもイヤホンをつけている家出少女。
     大人  大人になりきれない元売れない小説家。
     妖精  幼い僕っ娘。あくまで100%の善意で行動している。
     新卒  エネルギッシュで無邪気な新卒社員(女)。大人の同居人。
     
     
     Scene1 誘拐
     少女  (イヤホンをつけて地べたに寝転がっている。横に置いてあるダンボールには「私を誘拐してください」の文字)
     妖精  ねぇ、イヤホンつけて何聴いてるの?……って、よく見たらどこにも繋がってないじゃん。
     少女  ……、(ガン無視)
     妖精  お~い、起きてる~?
     少女  (イヤホンを付けたまま、微動だにせず)……起きてるけど。
     妖精  ねぇ、何してるの?そんなところで寝っ転がってなんかいたら風邪ひいちゃうよ。
     少女  (イヤホンのプラグをポッケにしまいながら、億劫そうに起き上がり)別に、風邪ひいたって、誰も困らないでしょ…。
     妖精  いやー、僕は困るんだけどなー(意味深)。え、何コレ?「私を誘拐してください」?
     少女  あー。どうですか?私を誘拐してみませんか?
     妖精  どうして僕が君をユーカイしなきゃいけないんだよ。それに、知らない人について行っちゃダメって大人に教わらなかったの?
     少女  そんなの忘れたよ…。それに今は、どうにでもなれって感じだから。
     妖精  ふーん、そーなんだー。
     少女  っていうか、誰?朝からずっと私に話しかけてるけど、どこから話しかけてんの?
     妖精  僕?僕はねー、うーんと……。よーせいさん、みたいな…?てんのこえ、みたいな…?
     少女  へー(無関心)。
     妖精  全然キョーミ無さそーだね。……あ、今何時?
     少女  十七時だけど。
     妖精  僕にはやらなきゃいけないことがあるんだった……。またあとでね!
     少女  めちゃくちゃじゃん…。
     
     大人  (怪しがりて寄りて見る、口には煙草)何してんだお前。
     少女  (大人に一瞥もくれず)見ての通り、私をさらってくれる人を探してるんです。誘拐してくれないなら、どっかに行ってくれません?
     
     大人  (煙草を地面に擦り付けるためにしゃがんで、少女と目線を合わせるように)………付いて来るか?
     少女  (起き上がって)えっ…。誘拐、してくれるんですか?
     大人  さあな。(シケモクを煙草の箱に入れながら)とりあえず、付いて来んなら、車に乗りな。
     
     Scene2 おとな
   
     少女  (片耳のイヤホンを外して)ねぇ、おじさん。おじさんのことなんて呼べばいい?
     大人  そうだな、おじさん、は嫌だからな。…オトゥーナ、とかどうだ。トゥの部分にアクセントな。
     少女  フッ、なにそれ、ダサっ。まぁ、おじさんがそれでいいんだったら、それでいいや。
     大人  自分から聞いておいて雑だな。
     少女  そんなことよりさ、オトゥーナはこれからどこに行くの?
     大人  あてはないさ。お前はどこか行きたいとことか、無いのか?
     少女  特には…。でも、強いて言うなら、ここからできるだけ遠いところ。そうだな…、天国?とか?とりあえず、日常から……、私の知っている世界から逃げたいだけだから。
     大人  (少女の死を連想させるような発言に黙っている)
     少女  ……何も言わないんだ。両親がどうとか。
     大人  別に。こんな他人が言ったってどうにかなる問題じゃないだろ。第一自分から、付いてくるか、なんて提案しておきながら、ご両親の心配までしているとでも?
     少女  確かに。…でも、オトゥーナには、家族とか大事な人とかいないの?もし警察に見つかったらつかまっちゃうかもしれないよ。
     大人  平日の夕方、世間でいう定時前にあてもなくふらついてるようなおっさんに、そういう人がいると思うか?
     少女  ってことはいないのか。なんだか寂しいね。
     大人  (沈黙)
     少女  (あくびをしてから)眠たくなったから、ちょっと寝る。
     
     大人  俺は売れない小説家だった。端から見たら、ただのニートと一緒のようなもの…。一応働く気はあったのだが、体調を崩しやすいせいで、ちゃんとした職に就けないでいた。定職に就かず、いつまでも夢を追い続ける俺に、家族や友人は「ちゃんと働きなさい」だの、「現実見ろよ」だの、いろいろ言ってきた。でも、俺にとっては全部、夢を諦めた人間の負け惜しみにしか聞こえなかった。……そんな風に人を見下してきた俺は、友達、遂には家族にまで見捨てられ、路上やネカフェを転々とする日々を送っていた。
     
     大人  (寝っ転がっている)
     新卒  ほら、起きて!こんなところに寝てたら邪魔だよ。自分で立てる?(手を差し伸べる)
     大人  (睨みつけて)あぁ?なんだよ。ってか誰だよお前。お前にとって邪魔だろうが、関係ない人間なんだし、別にほっときゃいいだろ。
     新卒  邪魔だと思ってるのは、私だけじゃないかもよ。みんなが困ってるんだったら、いつかは誰かが声をかけなきゃ。(もう一度手を差し伸べる)
     大人  (差し伸べられた手をガン無視して)へぇー、ずいぶんとお人よしだこと。
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