一方通行
一方通行
コウキ
アオイ
ミドリカワ
コウキ、正面を向いて語り。
コウキ アカバネコウキ、15歳。バスケットボール部所属の中学三年生。中学校生活最後の大会の日。スマホのアラームで目を覚まし、いつも通り朝ご飯を食べて家を出た。三年間やってきたことすべてをぶつけて臨む大事な大会。気持ちが逸っていた俺は小走りで会場へと向かった。車道を挟んで反対側に会場が見えた。急いで車道を渡ろうとしたその時、クラクションの音があたりを包み、あたりが真っ暗になった。次に目を覚ました時、俺は病院のベッドの上にいた。お医者さんから大型のトラックと衝突し、全治6か月の大けがを負ったことを聞かされた。体は思うように動かず、元の状態に戻るにはリハビリを続けるしかないそうだ。最後の大会に出られなかった俺は目標を失い、リハビリをする気力すらなかった。そんな俺を変えてくれたのは看護師のアオイさんだった。
病院のリハビリ室。アオイがコウキを支えて歩く練習をしている。
アオイ はい、あと少しあと少し、頑張って。は~い、よくできました。
コウキ はぁはぁ。
アオイ 今日もお疲れ様。この調子なら来週には退院できるんじゃない?
コウキ 本当ですか!
アオイ うん。よかったね。
コウキ でも、ちょっと寂しいな。
アオイ え、どうして?
コウキ だって、退院したらアオイさんと会えなくなっちゃうもん。
アオイ あら。嬉しいこと言ってくれるじゃない。じゃあさ、退院しても時々私に会いに来てよ。これまでみたいに、できるようになったこととか私にいっぱい教えに来てよ。
コウキ うん。
コウキ、正面を向いて語り。
コウキ アオイさんはいつも俺のことを支えてくれた。たくさんの励ましの言葉をかけてくれた。そんなアオイさんに、長い距離が歩けたこと、数学の問題が解けたこと、できるようになったことを話す時間が今の俺の生きがいになっていた。もうすぐ退院だ。そう思っていた矢先、悲劇が俺を襲った。
診察室。ミドリカワ、コウキが向かい合って座っていてアオイが横に立っている。
ミドリカワ それで、階段を踏み外して再び怪我をしてしまったとそういうことだね。
コウキ ・・・はい。
ミドリカワ せっかく治りかけていたのにこの怪我でまた悪化している。もしかしたら退院はもう少し先になってしまうかもしれない。
コウキ そんな!あ、痛。
アオイ ミドリカワ先生、なんとかなりませんか。コウキ君、毎日毎日リハビリを頑張ってきて、ようやく退院できるんです。なにか方法はありませんか。
ミドリカワ う~ん。一つだけ、あるにはあるんだが・・・。
コウキ え?
ミドリカワ立ち上がり、棚の中から瓶を取り出す。
ミドリカワ この薬はセルターン500といって、脳に作用する薬だ。この薬を服用することによって脳の細胞を逆再生させることができる。
コウキ 脳の細胞を、逆再生?
ミドリカワ 私たち人間はこの世界を脳で認識することによって生きている。もしもその脳を逆再生することができ、行動を変化することができたとしたら?
アオイ 歴史を、変えることができる・・・?
ミドリカワ その通り。
コウキ ・・・!
ミドリカワ この薬は治験段階ではあるがその効果は確認されていて、君が同意をすれば使用することできる。この薬を服用して時間を遡り、階段から落ちないようにすればこの怪我をしなかったことにでき、君は変わらず退院できるようになるということだ。
コウキ ・・・要するに、この薬を使えば、前の時間に戻れるってことですよね。
ミドリカワ 簡単に言えばそういうことだ。どうする、同意するかね?
コウキ ・・・同意します。その薬を飲んで、行動を変えます。
ミドリカワ わかりました。階段から落ちたのは今からどれくらい前かな。
コウキ 30分くらい前です。
ミドリカワ なるほど。それならこれくらいの量で充分だろう。
ミドリカワ、瓶の中から錠剤を取り出し、コウキに渡す。
ミドリカワ さあ、その薬を飲んでみて。
コウキ、少しためらいながら薬を飲み込む。
コウキ、正面を向いて語り。
1/2
面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種
Windows
Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。