幻日
fuzzy m. Arts No.023
幻 日

自分の世界は
今ここにあるものがすべて


Scene00:プロローグ(式日)

        走る男。

        その後方に走る2人の女。

女2   僕は、夢中で走っていた。
女1   一体どれくらいの距離を、どれくらいの時間をかけて走っていたんだろうか。
女2   景色はいつの間にか、知らない所に変わっていた。あれ?どこだここ?
女1   そう思いながらも、僕は1度も振り返らなかった。振り返ることができなかった。
女2   振り返ってしまったら、それで終わりになってしまいそうだったからだ。
女1   終わりというのはつまり、人生の終わりだ。命の終わりではなく、人生の終わり。
女2   とは言え、ほどほど生きてきた僕だ。これで終わりなら、それはそれで仕方のないこと。
女1   今まで自分のやってきたことの顛末だ。何が悪いってすべて僕が悪いんだ。そう、すべて僕が悪
     い。
女2   だからと言って、そう簡単に受け入れられるものじゃない。わかっていても終わりたくない。だ
     からこそ走った。
男    だからこそ僕は、夢中で走っていた。その先に何があるかなんて考えず、ひたすら走っていた。

        3人が入れ替わり、女1が中心に。

        みんなイスに座る。

男    私の思いは伝わらなかった。私はあれほど「しめやかにお願い」って言ったのに。
女2   いや、そもそも「しめやかに」なんてのは難しいのかも知れない。
男    だって誕生日なんだもの。
女2   そう、私の誕生日なんだもの。
男    でも彼は一生懸命だった。一生懸命考えてくれたのはわかるんだけど、素敵な歌も音楽も、こん
     な帽子もメガネも、私には必要なかった。
女2   30手前の私には、刻一刻と迫る年齢の増加を素直に受け入れる準備が出来ていないの。
男    全然出来ていないの。
女2   それにお店に入った時に、「あっ」て思った。
男    早速「あっ」て思ったの。
女2   あなたは私の思いを理解してくれなかったことに絶望したの。
男    あれほど「しめやかに」って言ったのに。
女1   あぁ、こんなにも違うのに、こんなにも全然違うのに、私たちはこれからやっていけるんだろう
     か。無理だ。絶対無理なんだ。

        3人が入れ替わり、女2が中心に。
        寝転がる3人。

女1   あたしはぺったんこの布団の上で、「泥の様に眠る」と言うことの意味を考えながら、うとうと
     としていた。
男    泥は泥であって、生きている訳じゃないからぁ、眠ったりなんかしない。
女1   だから、泥を「生き物」としてとらえている訳じゃなくて、たぶんその様子を「生き物」として
     例えているのだろう、なんて考えていた。
男&女1 泥の様子?
男    なんだそれ。泥なんて所詮泥。
女1   べちょっと、
男    どろっと、
女1   ぬたっとした
男    あれのように眠るって一体どういう事?
女1   こんな感じか?
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