プロメテウスの火
瀬戸山光子作
プロメテウスの火
登場人物 21人
語り手 オープニングとエンディングで登場する。白い服。
シヴィラ 火の司祭。老婆。火と、それを人間にもたらした神プロメテウスを崇拝する。
アニマ アグリの娘。15歳くらい。アグリの後継者になるため見習いをしている。
アグリ アニマの母。40歳くらい。ナトゥラの娘。古い神を捨てて火の神に仕えている。
ナトゥラ 森に隠れて住む古い神の巫女。老婆。火の神を拒んで殺されるところを、アグリに助けられ森の奥に追放された。火が、いつか人間自身を焼きつくすことを予言し狂人扱いされている。獣と話し、木々や風の声を聴ける最後の人間。
グリド 広い畑を持つ豊かだが欲深い村人。自分の畑で貧しい人々を働かせている。
イグノ グリドの妻。夫と同様に欲深い。
クマリ グリドとイグノの子。
マルキ 貧しい村人。グリドと敵対し、平等を主張する。
村人1
村人2
村人3
村人4
子供たち1
子供たち2
子供たち3
子供たち4
新しい人間の子供たち1
新しい人間の子供たち2
新しい人間の子供たち3
新しい人間の子供たち4
舞台配置
舞台下手側木の幹が並ぶ。舞台上手側には火を燃やした炉と祭壇(火を燃やした炉は小型扇風機に白く軽い布を張り付け、赤い光をあてる)。夜の場面では星球を使用。上手側ソースフォーで月の模様。下手側幹の上にソースフォーで葉の模様、緑色。
1場 オープニング
幕が上がる。夜の森。動物や鳥、虫の声が聞こえる。星と満月が出ている。舞台中央には火が燃え、その周りを囲むように新しい人間の子供たち4人が座っている。舞台上手に語り手が立っている。
語り手 遠い昔、世界がまだ若かった頃、森は今よりもずっと深く、夜は今よりもずっと暗かった。森には、古い人間たちが住んでいた。彼らは森の動物たちや木々と語り合い、風や雲の声を聴くことができた。その頃、人間はまだ火を知らず、森の動物たちと同じように森から生まれ、森と共に生き、そして森に還っていった。
語り手はゆっくりと舞台中ほどまで歩いていく。
語り手 寒さに震え、暗闇に怯える人間を哀れに思った神、プロメテウスは空に昇り、天の神から火を盗み出して人間に与えた。人間は火で体を温め、闇を明るく照らした。固い草の種からパンを焼くことを覚えた。畑を作り、種を撒いた。人間の数は増え、大地を満たした。
語り手が舞台中央に立つ。
語り手 遠い時代、遠い場所に住む人間の子供たちよ。どうか聞いてほしい。かつて火を手にした古い人間たちが、いかにしてその火で自らを焼き滅び去ったかを。火が再び世界を焼きつくす前に、あなたたちに語ろう。人間が二度と、同じ過ちを犯すことがないように。
暗転。新しい人間の子供たちと語り手ははける。
2場 火を手に入れた人間たち
舞台奥からアニマが素焼きのランプの中に入れた火を持って歩いてくる。炉の裏の祭壇の上にそのランプを置く。徐々に明転。昼間の照明。森の中のように薄暗く木漏れ日が差す。上手からシヴィラが歩いてきて祭壇の脇に立つ。麦の穂を抱えたグリドに続き、イグノとクマリが炉に向かって歩いてくる。その後に村人1〜4、子供1〜4が続く。グリドとイグノとクマリは他の人々より豪奢な服装をしている。グリドが祭壇に麦の穂を捧げる。シヴィラはそれを見ている。アグリとアニマはシヴィラの脇に控える。
グリド 我ら人間のために天から神の火を盗んでくださった偉大な神プロメテウスよ。あなたは火の力をもって我々を温め、暗闇を照らし、固い麦を柔らかいパンに変えてくださいます。どうぞ、この捧げものをお受け取り下さい。
シヴィラ 神を敬うグリド。神はお前の捧げものをお受け取り下さる。今日はどのような用で来たのか。
グリド 今日伺いましたのは、偉大な火の神プロメテウス様の前で、村の皆に嘘偽りない話をするためでございます。
シヴィラ 話してみなさい。
グリド はい、ありがとうございます。
グリドは村の人々に向き合う。
グリド 皆聞いてくれ。お前たちは今自分の畑だけでなく、私の畑も耕してくれている。その代わりお前たちには、そこで取れた麦の半分を与えている。それは昔、火の神の前で約束した通りだ。そうだったな。
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