人魚のジレンマ
「人魚のジレンマ」 宮下光
登場人物:将校・軍人・A・B

    将校の部屋に軍人が入ってくる

軍人「失礼します。」
将校「よく来てくれた。」
軍人「して、本日は」
将校「君も知っての通り、我が国の戦況は徐々に劣勢となっている」
軍人「はい」
将校「かの国はついに大量破壊兵器の開発に成功したというじゃないか。」
軍人「噂かと思っておりましたが。」
将校「その点に関しちゃ君、」
軍人「真実などどうでもいいでしょうね」
将校「よくわかっているよ」
軍人「それで、」
将校「きみ、知り合いに人魚はいるかな」
    一瞬戸惑う軍人
軍人「いえ、心当たりは」
将校「残念だ。いるなら話は早かったのだがね」
軍人「将校殿、話が見えません」
将校「そうか、君でもか」
軍人「恥ずかしながら」
将校「人魚伝説というものを知っているかね」
軍人「足を得る代わりに美声を失うあの」
将校「ははは、今回はそっちに用はないんだがね」
軍人「と、いいますと」
将校「不死身だよ」
軍人「ふじみ…」
将校「東邦の伝承なんだがね。人魚の肉を食べたものは不死身の肉体を得るんだよ。」
軍人「不死身の肉体」
将校「さっきも言ったのだが私たちの軍は劣勢だ。上層部だけじゃない。技術部だって前線だって必死なんだよ。」
軍人「遠い海の向こうの伝説にすがるほどに…ですか」
将校「自分で言っては見たが手痛い批判だな。」
軍人「その辺は分かりました。で、私は何を」
将校「大事なことを言い忘れてたよ。人魚はね、もう集めてあるんだ」
軍人「もう、ですか」
将校「人魚をね、募集したんだ。」
軍人「それで集まったものから本物を見つけろと」
将校「そういうわけだ。本物の人魚には懸賞金がかかったからね。この国には意外にもたくさんの人魚がいたというわけだよ。」
軍人「では、その中から本物を見つけるのが」
将校「それだがね、」
軍人「まだ何か」
将校「ここへ向かう途中に敵国の爆撃に遭ってほとんどが死んでしまったんだよ。情けない話だろ」
軍人「で、残りは」
将校「2名だよ」
軍人「本物を見極めろと?」
将校「そういうことだな。二名が二名ともそうならうれしいんだがね」
軍人「分かりました。……それから将校殿」
将校「なんだね」
軍人「人魚は、どのように使うのでしょうか」
将校「不死身だからね、不死身の兵士が欲しい」
軍人「不死身の兵士ですか。」
将校「君のような優秀な兵士は稀なんだよ。戦争を渡り歩くなかでどんどんと兵士の数は減っていく。死なない兵士というのはいつになっても欲しいものだよ。」
軍人「分かりました。このわたくしが本物の人魚を見極めて、必ずやわが軍の勝利に結びつけましょうぞ。」
将校「では、続報を待つよ」
軍人「失礼します。」
    部屋を出る軍人。ぽつりとつぶやく。
軍人「不死身…ねぇ」

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