その手が届くとき。
その手が届くとき。
作:音佐りんご。

◇あらすじ
豊穣を約束する代わりに生け贄を要求する神を祀る村での話。
神への供物として地下で育てられたアルムは、神官の娘ルルネと出逢い外の世界への希望を抱く。一方、アルムと同じく供物であるハントは、かつて自分を神に捧げようとした神官に恨みを持つマーノと出遭い、真実を知る。アルムと接触することでルルネにも変化があり、同期のカイや神官である父との間に軋轢が生じる。
そして近づく儀式の日に向かって、運命は交錯する(仮)

◇登場人物

・アルム《生け贄》
・ハント《生け贄》
・ルルネ《神官の娘》
・トトリ《神官》
・カイ 《村の青年》
・マーノ《復讐者》

プロローグ。

心臓のような鼓の音。
炎の揺れる明かりに照らされて闇が晴れると仮面をつけた三人の人影が各々に手を伸ばして立っている。
囃子に合わせてその影を次第に変化させる。
大きく太鼓の音が一つ鳴ると、人影は並び千手観音或いは阿修羅のような姿になる。
先頭に立つ男トトリ、手にした杯と鎌を掲げる。

トトリ:飢餓に震える人心よ、豊穣の時は来た。然らば捧げるは務めなり。我が受け手なるは血を求み、我が腕を欲す。然らば与えられん、我が指の潤沢を。捧げるは務めなり。飢餓に震える人心よ。豊穣の時は来た。

足を踏み鳴らす。

トトリ:捧げよ。

トトリ達、手を空中に走らせ、一斉に縄を手繰るような仕草。
太鼓の音。
仮面を被った青年が拝むように現れると、無数の手に抱かれてその一部となる。
更に一人、また一人と、その列に加わり次第に大きな塊となっていく。
新たに太鼓が鳴り、手が宙の縄を手繰るが何も起こらない。
辺りは静まりかえる。

マーノ:放せ! 僕は、嫌だ。ああ、放せ死にたくない!

一瞬腕が止まる。が、更に激しく手繰り寄せる。

トトリ:捧げよ。

引きずり出されるようにに仮面をかぶったマーノが現れる。

マーノ:こんなもの! くそ!

囃子が高鳴るにつれてマーノはどんどんと手繰り寄せられていく。
もがき苦しむマーノ。
トトリの手にする鎌が触れようとしたとき、マーノが腕の一本を払う。
並んでいた内の一人が弾き出されて倒れる。
トトリ達の動きが止まる。

トトリ:捕らえよ!

並びが解けると、腕をうねらせてマーノを囲う。
再び囃子が高鳴ると、輪は狭まっていく。
マーノに触れようとする腕の一人が硬直する。その脇を抜けると迫る一人を振り払う。しかし払いのけられず、絡みついてくる。一本二本とその数は増え、マーノを中心に腕が絡み合っていく。
トトリがそこに歩み寄ると、鎌を大きく掲げる。
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