誰も見えない廃墟の空に青い鳥はなぜ行った
かんから館 第四十八回公演 台本

誰も見えない廃墟の空に青い鳥はなぜ行った          作 川村武郎

    〈キャスト〉アイ  愛   荻原朔太郎





     河原の土手。
     少女と老人が並んで座っている。

アイ   そやから‥‥じめーって感じ?
朔太郎  じめー?
アイ   いや、もっともっと。じめじめーって感じ?
朔太郎  じめじめー?
アイ   うーん、ちょっとちゃうな。
朔太郎  えー? ‥‥どこが‥‥違うの?
アイ   うーん、言葉ではうまく言えへんねんけど、何かちゃうんやなあ。
朔太郎  えー。
アイ   ‥‥まあ、あれか。
朔太郎  え?
アイ   朔太郎には無理やな。
朔太郎  え。‥‥何だよ、それ。
アイ   そやから‥‥表現力みたいなん? いや、想像力かな? ‥‥まあ、どっちもか。
朔太郎  何だよ、それ?
アイ   そやから‥‥。
朔太郎  年寄りだから?
アイ   え? 何なん、それ?
朔太郎  いや、だから‥‥年をとるとみずみずしい感受性が失われるとか‥‥。
アイ   へー。‥‥そんな風に思てんの?
朔太郎  いや、思ってないけど。
アイ   え? 何なんそれ?
朔太郎  いや、だから、世間じゃそんなこと言うやつが結構いるからさ。
アイ   ふーん、世間ねぇ。
朔太郎  うん。‥‥だから、別にオレがそう思ってるんじゃなくて。
アイ   ふーん。‥‥何かめんどくさいねんな。
朔太郎  ああ‥‥まあ‥‥そうだな。

     二人、しばし、前方の風景を見ている。
     アイが、足下の石ころを拾って投げる。

アイ   ポッチャーン。

     アイ、もう一つ投げる。

アイ   ポッチャーン。‥‥朔太郎も投げてみたら?
朔太郎  (ほぼ同時に)実を言うとさ、
アイ   え?
朔太郎  ああ‥‥ああ、別に投げてもいいんだけど、その前に実を言うとさ、
アイ   え? 何言うてんの?
朔太郎  まだまだ若いもんには負けんとか‥‥。
アイ   はあ? ‥‥そやから、何言うてんの?
朔太郎  まあ、それこそステレオタイプな老人みたいで何なんだけどさ、そんな風に思ったりもして‥‥。
アイ   何なん、それ?
朔太郎  そういうの、何か情けない感じで嫌いだったんだよな。オレは年とっても、老人っぽい老人なんかにはならないってずっと思ってたんだけどね‥‥。
アイ   ‥‥‥。
朔太郎  でもさ、そんな風に意地張ってかっこつけようとするのが、むしろ老人くさくてかっこ悪いんじゃないかなって、気づいてさ。
アイ   ‥‥‥。
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