療養所








療 養 所            作・三月 広明










-----メモ-----
まだらぼけ。夜に痴呆の症状がひどくなるが、昼間は普通。それは二重人格のようであり、昼と夜では異なる時間が進行している。しかし、徐々に『夜』が長くなって行き、最後には『夜』にすべて飲み込まれる運命は明白で、『昼』はその恐怖に怯えている。

  林田はある晩、ついに小塚に怪我をさせてしまう。

  全てが『夜』になった時、脳出血。意識は戻らない。小塚は夢を見るのだろうか。その夢は、果たして『昼』か『夜』か。呼吸を助ける機械の発する風の音、脈拍を測定する機械の電子音の中で幕。

  シームレスに場転したいけど、老女の着替えどうしよう。
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小塚(老女)
林田(女性)
森本(男性)
森本の母(女性)
ユウコ(女性)
テツジ(男性)
妻(若き日の小塚)(女性)
夫(若き日の小塚の夫)(男性)


 暗闇の中、ピアノの音が響いてきて、徐々に明かり入る。
 小塚がおもちゃのピアノを弾いていたようだ。
 クラッシックの曲のようだが、その指、そのピアノから奏でられる音からは元の曲が分からない。
 ここはグループホーム。ある程度自力で生活できる老人が、個室を与えられて生活している。どこの高齢者福祉施設でも同様であるが、入居希望者の多さと従業員の少なさ、そしてそこに入居する者を遠からず待ち受ける運命が、建物全体の空気を重くしているかのようだ。
 隣室の入居者であるテツジがやって来て、小塚の部屋の前に立つ。
 テツジによって激しくドアがノックされる。


テツジ   おい!うるせえぞ!何時だと思ってんだ!おい!入るぞ!

 テツジがドアを開けるが、小塚は意に介さずピアノを弾き続ける。

テツジ   無視するんじゃねえ!こっちを見ろ。何時だと思ってる!今すぐその耳障りな楽器を辞めろ!

小  塚  (ようやく止まって)耳障りな楽器じゃないわ。これはピアノ。

テツジ   なにがピアノだ。ご大層な言い方しやがって。オモチャじゃねえか。

小  塚  オモチャだなんて失礼ね。これはお父さんが買ってくれたのよ。

テツジ   なーにが「お父さん」だ。お前のお父さんとやらが、どうして買ってこられるってんだ。
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