終わりを前にもう一度。
~灰色の町~
『終わりを前にもう一度。~灰色の町~』
作:音佐りんご。

◇登場人物◇

トモ:少年。
ソメソメ:自称大泥棒。
ネネルネルス:愛に生きる男。愛にしか生きれない男
アイジュ:組織の心優しき構成員。
メレー:人工生命『メレー・ベレー』
イヌゴン:研究者
タビ:猫おやじ。
ツヅレ:組織の主導者。
エルル:組織に属する暗躍者。

プロローグ

雨の音、そこに混じる猫の鳴き声。
闇は次第に薄明け、雨と曇り空の陰気な街が浮かんでくる。
雑多で、しかし人の手の入っていない薄汚い路地、朽ちた家々の隙間から除く広間、中心に古い岩のようなものが置かれ、そこを起点として世界が構成されている。
雨を溶かした石畳を鏡にして、反転した灰色の町が映る。雨の波紋は静かに満ちる。間断なく、規則的な雨垂れのリズムが続く。それを乱す足音を引き連れて、傘を持った男(ネネルネルス役が担当)と、少年トモが歩いてくる。男は楽しそうに話す少年を静かに見守っている。雨音が少年の声をかき消していく。
向かいから人の群れ、後ろからも人。足音が雨に重なり雑踏となると、二人を引きはがす。
少年は叫びをあげる。が、声はかき消される。次第に遠ざかる男。少年は男を追いかけようとするが人垣に阻まれて身動きさえ取れない。強い雨の音。
人々の隙間から少年の腕だけが抜けだす。
雷鳴。
一瞬の静寂。すべての動きと音の停滞の中、男が少年に振り返る。少年と男の目が合う。少年が何かを言おうとするより早く男の声が響く。と、同時に雷鳴。

ネネルネルス:(男)待っていろ。

男、去る。強まる雨音の中で少年は崩れ落ちる。
稲光とともに世界が一瞬明るくなると、揺り返しに一瞬闇が覆う。すると人々はどこかに消えていき、少年と傘だけが取り残される。
失速する雨音とともに世界は明度を落としていく。
溶暗の中にすすり泣き。

トモ:父さん。

****

広がり回転する傘の群れが少年を世界ごと覆い隠すと、そこはどことも知れない研究所。
薄暗い中に不気味な光と、怪しげな装置が蠢く部屋。
少女メレーが一人、台の上で横たわっている。その周りを傘の群れが舞い踊る。
雨の音が換気扇の回る鈍い音にかき消されて聞こえなくなると、輪の中から三人の人物イヌゴン、タビ、エルルを残して、傘の群れはいなくなる。
三人の内、イヌゴンとタビは少女の傍に立ち、エルルは少し離れたところで何かしらの作業をしている。

少女が起き上がると、傍にいた二人が喜びに包まれる。
少し離れた位置にいたエルルはそれを嬉しくなさそうに、それどころか少女をにらんでいる。
ぼんやりとして少女はあたりを見回す。すると、喜ぶ二人の向こう側の人物と目が合う。見られたエルルは居心地悪く、逃げるようにして去っていく。
少女はそれを悲しそうな顔で見送る。
喜び、舞い踊る二人の幸福を打ち壊すように、突然、警報が鳴り響く。
動きを止める二人、近くにあった装置へ駆け寄る。
何事かを言い争った後、慌てて散らばっていた荷物をかき集める。
少女はその様子を眺めていたが、立ち上がり歩き回る。それに気付いたイヌゴンは名前を呼びかける。

イヌゴン:メレー!

と、同時に扉が開き傘を持った人々がなだれ込んでくる。
イヌゴンとタビ、傘の群れに囲まれる。
その様子を見つめている少女のもとへ、先ほど逃げていったエルルが傘を持って現れる。
エルル、少女に手を差し出す。
少女、手を取ろうとするが、寸前に囲まれていた二人のうちの一人、タビが少女を攫って行く。残された一人は傘の群れを散らすと裏切ったエルルに攻撃。
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