暑中三行半
わたし:姉の墓は海から遠い。
0:(蝉の声)
わたし:(坂道をのぼる息)
わたし:ふぅ、あっつぅ……
わたし:あづ……
わたし:日陰ないのかな。無いな
わたし:あー!疲れたもう無理(手近な岩に座る)
わたし:……墓遠いよ。ね?金魚ちゃん。お前もゆだっちゃうよな
0:(右手には金魚鉢。二匹の赤い金魚)
わたし:(金魚をじっと見て)喉乾いたなぁ
わたし:(ぴょんとたちあがる)っと!
わたし:忘れてた、はい、カップ酒どうぞー(墓石にかける)
わたし:海水汲んできてあげるね、来年はさ。
わたし:海、懐かしいでしょ。
わたし:(足音に気づく)あっ
まや:おっ、こんにちは
わたし:……
まや:待ってたよ
わたし:だれ
まや:姉さんの墓参りか。偉いね。
わたし:姉さんの知り合い?
まや:ちゃんと赤い金魚連れて。赤い金魚だけ連れて。偉いね。
わたし:(金魚鉢をひっこめて)さわんないで。誰?
まや:姉さんのおとこ。
わたし:……っ
0:(かすかに陽が翳ったような錯覚)
まや:なんだよ、その顔。
まや:僕の家、そこなんだけど。寄っていくでしょ。
0:(白昼夢)
摩耶:赤い金魚でなくてはいけない?
姉:そうよ
摩耶:黒いのは?
姉:嫌
摩耶:でもこれは紺だよ。僕の好きな色だよ
姉:紺なんていないよ
摩耶:紺だよ。陽の光に透かしてごらんよ
姉:だめ。
摩耶:せっかくとってきてやったのに
姉:赤じゃないと
0:(ごくン)
姉:あーあ、
0:(まやの家)
わたし:喉乾いた
まや:麦茶でいいなら
わたし:いいよ
まや:大丈夫?熱中症?
まや:(手を出して)ん。
わたし:なに
まや:金魚、涼しいところに置くから。貸して
まや:ゆだって死んじゃうよ
わたし:(渋々わたす)うん
まや:いい子。(撫でようと手を伸ばす)
0:(ちゃプン)
わたし:(手を跳ねのけて)
わたし:くさいっ
まや:え?
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