ヤモリ
後妻:(架空の歌です。自由に節をつけてうたってください)
後妻:〽京都よいとこ、歌う女の、声を追い追いほととぎす。
後妻:良い子手放し、寝ぬ子宿無し–––
0:(後妻、居間で来客と話している)
鞍内(百貨店の男として):それではええー、ツーピース。ですね。生地はえー、こちらで。はい、はい。仕上げ係には、大奥様はいつも加藤をご指名でしたけれども、よろしいでしょうかね。
後妻:誰でもいいわ。明日あたり届く?
鞍内:はっ。はっ?いえいえ、今日お伺いしたところ、ですから。明日にはとても、間に合いません。ええ。
後妻:そう?……明々後日は。
鞍内:いえ、あのぅ。一週間は頂戴しませんと。
後妻:ええい、はやくしてもらわなくっちゃ困るの。
0:(秘書が入ってくる。)
秘書:あ、失礼。
鞍内:ああ、いえいえ
後妻:なに?
秘書:……いいえ。
秘書:あの。旦那様の納棺の準備が済みました。
後妻:そう。後で参ります
秘書:そちらは。
後妻:百貨店の係りの方。喪服を仕立ててもらっているのよ。
鞍内:どうも。
秘書:はぁ。
後妻:(退出しない秘書の方を見ていらだちを見せ、客に)……ね、それじゃ頼みますよ。後でお電話しますから。ともかく、はやくね。はい、さよなら
鞍内:はい、はい……そいじゃ失礼いたします。
0:来客を見送る
後妻:なに。急の用事でもある?
秘書:いいえ。
後妻:なによ、それじゃ不躾に応接の邪魔をしないでちょうだいな。
秘書:喪服をいまさら、ですか。
後妻:だってこんなはやくに亡くなると思わないから。
秘書:亡くなってからとってつけたように用意するものではありませんよ。
後妻:非常識で結構。どうせ学生に毛が生えたような女です。
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