青春謝肉祭
犬山:岩田!
0:(駆け寄ってくる足音)
犬山:な、俺フンコロガシ見つけたんだけど
徳田:なにそれ
岩田:まじ!?すげぇじゃん!ファーブルで読んだやつだ!
犬山:よな!?俺もファーブルで読んだ!この後ろ脚すげぇいいよな。
岩田:かっこいいー!
徳田:きらきらしてんじゃん。かっけぇ
犬山:あ、姜先生!
姜:(通りかかって)うん?どうした?
犬山:姜先生、これ何ていうフンコロガシですか
姜:ん、これはねぇ。ゴミムシダマシだね
岩田:……フンコロガシとは違う?
姜:そう、まぁ近い仲間だけど。ゴミムシに似ているからゴミムシダマシ。きれいだよね、この虹色の艶とか、犂みたいな足とかね。
岩田:おい、フンコロガシじゃないんじゃん。
徳田:ゴミムシダマシってなに?
岩田:そのへんにいるやつ
徳田:レアじゃないんかよ
犬山:……
姜:詳しい種類はなんだろうなぁ……この子どこで見つけたの
犬山:……
姜:犬山君。
犬山:フンコロガシだよ、これ
姜:んー。ゴミムシダマシは嫌いかい。
岩田:何泣きそうになってんの。おれ、先帰るよ。じゃあな!
徳田:あっ、待てよ岩田!サッカーする約束だろ!
岩田:川藤とかとやれよ!
徳田:あいつらもう帰っちまったよ!
0:(徳田・岩田去る)
犬山:……(手からゴミムシダマシの死骸を落とす)
姜:ああ、何で落とすの。もったいない(拾い上げる)
犬山:……
姜:見て。足の一本も欠けてないよ。こういうのはきれいな標本になるんだよ、犬山君
姜:ね、ゴミムシダマシだって、立派な甲虫なんだよ。(犬山の手に持たせようとする)
犬山:要らない!(振り払う)
姜:駄目だよ、そんな乱暴にしちゃ……(チリ紙で丁寧に拾った虫の死骸をくるんで、立ち上がる)準備室に僕の標本があるんだ。見に来る?
犬山:(鼻をすすって)……うん
姜:よぉし。じゃあおいで。
0:(理科準備室の戸がキィ、と甲虫のように鳴く)
犬山:……わぁ、
姜:ね、けっこう、すごいだろ。
犬山:これ、
姜:これいいでしょ。目が高いねぇ。出して見せてあげようか?
犬山:これ、フンコロガシ?
姜:そうだよ。エジプトでね、なんと帰り際に空港のマンホールの上で見つけたんだよ
犬山:ほしい
姜:え?
犬山:これほしい、先生
姜:うーん。
姜:いや、これはあげられない。
犬山:どうしてくれないの!
姜:(膝をつき、犬山と目を合わせて)あのね、これは先生が20歳の頃に初めて日本を飛び出して、お腹を壊したり危ない目にあったり、大変な思いをして出会った子なんだ。
姜:その時、僕がどんなに感動したか。
姜:君には、この子がただ死んだ虫に見えているだろうけど、これは僕の思い出なんだ。
犬山:……
姜:ね、犬山くん。また、見せたげるから
犬山:……嘘だ、先生が独り占めしたいだけだ

0:(帰宅途中の川藤と永瀬。)
永瀬:何とぼとぼ歩いてんだよ、徳田が追いついてきちゃうだろ。
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