輪唱「群像」
(五人の人間が展示物よろしく、バス待ちの人よろしく、所在なげに配置されている)
(一人がぎくしゃくと立ち上がり、声を発する)

わたし:残りおよそ五分で、お風呂がもう沸きました。
わたし:お風呂に入るたびに心臓がお湯に溶けて流れ出していくのでキライです。
わたし:百数えるまで出てはいけないそうです。キライです。
わたし:でもわたし偉いのでちゃんと入ってちゃんと数えます。
わたし:いーち、にー、さーん、しー、(狂言チックに石を拾って見、落として追う)ご(水面に顔をつける)、ゴ(水面に顔をつける)、ご(水面に顔をつける)、ゴゴゴゴゴゴゴ、
わたし:……(ぐしゃっとくずれる)

(Dが手拍子をはじめ、Cが驚いてそれに同調するがA、Bが動かないのを見てやめる)
(Dは早々に飽きてやめている)

A:一章「雑踏」。演劇のように刹那的だった。
A:(カーテンコールのように様々な方向へ礼をする)
A:重く四角く大きなアルバムを持って歩いている。
A:道々ロッカーにでも預ければよかったのに、置いてくることができなかった。
C:もしもし。就職決まったんだって?
A:おう。何とかニート回避した。
C:お前の親きびっしぃもんな。よかったじゃん。
A:親は満足してねぇけどな。お前は?
C:教師。
A:あ?なんか教師は嫌だって言ってなかったか。
C:いや、まぁいろいろあって。
A:ふぅん。あ、電車来たわ。バイバイ
C:あ、ちょ。同窓会さ、あいつ、来る?
わたし:電車が止まります。(わたし止まる)
A:珍しくマジメぶって将来を語った高校の昼休み。うん、あれもいい思い出だった。
B:同窓会?
A:今度の同窓会。俺幹事なんだよ。
B:あ、そうわざわざ連絡くれなくても……僕は欠席でお願いします。
A:えー来いよ。
B:嫌だ。
A:あ?なんで?お前暇じゃん。
B:嫌だよ。だってあの子も来るんでしょ。
A:来ないよ。
わたし:欠席 シマス(方向転換)
A:って葉書きた。
わたし:充電してください
B:僕も欠席します。切るよ。
A:渋る友人を連れ出して遊びに出かけた夏休み。うん、あれもいい思い出だった。
D:同窓会の幹事お前なんだ。大変だな、人集まんないだろ。
D:あ、あいつ、あいつは?
わたし:欠席 シまス(方向転換)
A:みんなあいつのこと大好きだな。来ないよ。
D:来ないの。
A:来ればいいのにな。
D:お前マジ?正気かよ。来てどうすんだよ。
D:まぁーむかし俺がキレた時も張本人のお前ケロっとしてたもんな。
A:いつの話?
D:二年!国語。ちょ、覚えてないのかよ。
A:詩的な友人を茶化して怒らせた国語の授業。うん、あれもいい思い出だった。
D:お前知らないとこで死ぬほど恨み買ってんぞ。
わたし:欠席 します。
A:小学校から受験して、高校で勉強に飽きた。親が反対したので入れなかった演劇部。こっそり出入りして友人をつくった。友人が出来たら学校にいるうちは楽しかった。高校を出たとたん親と差し向かいになって背中に期待がデンと乗った。
A:まぁ、今となってはいい経験だった。
A:あるいはそう演じているだけかもしれない。
A:毎日鞄が重い。重い。紙しか入ってないのに。川に流してやろうか。
A:アルバムを手放さずに持って歩いている。置いてくることが出来なかったから、毎日重たい思いをして歩いている。一つ一つ確認しながら生きている。いい思い出だった。いい思い出だった。あれも。思い出だった。ちゃんと。ぜんぶ思い出だ。思い出だ。
わたし:思い出づくりの達人だね。
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