一人芝居用台本「青」
深夜。アパートのベランダ。
男が現れる。
男、夜空を見上げて、
「おー」
しばらくそのまま。
男、ふいに室内に向かって、
「たっくん。たっくん。……寝ちゃったかな?たっくん、来てごらん」
たっくん、来ない。
男、笑顔を貼り付けたままの顔で再び夜空を見上げ、
「いやー、綺麗だなぁ」
男、ちらりと室内に目をやる。
「ママ。ママ。……寝ちゃったの?ママ、ほら」
男、夜空を指さし、
「地球。今夜は地球がよく見えるよ」
反応はない。
男、笑顔のまま、
「たっくん、見てごらん。青いでしょう。地球はねぇ、青い星なんだよ。……たっくん、こっちおいで」
たっくん、来ない。
たっくん、何か言う。
「あの青い星がチ……え?何、たっくん?……知ってる?誰に教えてもらったの?……幼稚園で習った?ああ、そう……」
男、しみじみと夜空を見上げる。
「……綺麗だなぁ。たっくん、パパはね、青って色が一番好きなんだ。青はね……青は……あれだから……たっくんの……たっくん?」
男、笑顔のまま黙り込み、ふいに
「……あのね、地球の信号機はね、青が進めなんだよ。知ってる?たっくん。……たっくん?幼稚園で……たっくん?」
男、室内を振り返り、しばらくそのまま。
「青、青が進めだから……パパ、地球に行ったら、信号機に見とれて……車、停めちゃうかもね。アハハ……パパ、青が好きだから」
男、再び夜空を見上げる。
「……地球に行ったらね……パパが……。……ママ。……ママ。……ママ、あれはいつだっけ。ほら、僕らが……(急に声を潜めて)僕らがほら……」
男、指を折り、何かを数える。
「もうかれこれ……うん、こっちの時間だとそうだけど、地球の時間だと……地球の時間だと……」
男、しばらくうなっているが、やがて数を数えることを諦める。
「わかんないや。いいよ、わかんなくてね。……青は、いいよね。……地球はね、空と海が、同じ色なんだよ、たっくん。信じられる?こっちとは大違い。……たっ……」
妻に注意され、
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