怪獣の住処
「怪獣の住処」


錦田 ・・・ にしきだ。作家。誤字が多い。
渋谷 ・・・ 甥(晴希)。または姪。姪だったら遥花(はるか)

#1

錦田  ギャオオ、と遠くから、呼ぶ声がする。雷鳴。とっさに身をかがめる。ズシン、ズシン・・・ズシン・・。もう行ったか・・・?
渋谷  ・・・え?
錦田  もう行ったのか、と聞いているんだ!!
渋谷  ええっと、いま来たところなんですが・・・。
錦田  そんなわけないだろう! いま、足音は次第に遠ざかり、そして、主人公の保(たもつ)はようやく、破壊された街と犠牲になった人々を思って悲しみに暮れる暇を・・・。
渋谷  あのー・・・おじさん?
錦田  じゃなかったな。ここは、日本だ。そして、ここは、私の暮らしているアパートで。私は錦田保。小説家。それで、君は、甥の、
渋谷  晴希です。晴れる希望で、晴希です。
錦田  そうだったそうだった。弟から話は聞いているよ。あ、何か飲む?
渋谷  いただきます。
錦田  じゃあ、冷蔵庫の中から適当に出してきていいから。
渋谷  あ、はい。
錦田  えっと、それで、なんだっけ? 夏休みの宿題なんだって?
渋谷  そうなんですよ。探究学習で、職業調べ、っていうのがあって。
錦田  職業ねぇ・・・。あんまり参考にならないかもしれないよ。
渋谷  でも、お父さんが、珍しい仕事だから、見てくるといいって。
錦田  珍しいというか、晴希くんのお父さんは、ちゃんとした仕事についているじゃないか。それじゃダメなの?
渋谷  でも、いわゆる普通のサラリーマンで。たぶん、まとめても、意外性はないんです。
錦田  今どきの高校生は、夏休みの宿題に意外性が求められるのかい?
渋谷  まあ、その・・・ちょっと、この宿題は頑張りたいんですよ。
錦田  それで、頑張ろうとした結果が、こうなったわけだ。
渋谷  はい。これから、1週間、よろしくお願いします。

錦田  はい、よろしくお願いされました。・・・ところで、晴希くん。
渋谷  はい。
錦田  一つ最初に行っておくけど、うちは、セルフサービスをモットーとしているから。
渋谷  と、いいますと?
錦田  自分のことは自分でやる、ということ。食べたら自分で片づける。洗い物もする。そういうわけでよろしく。
渋谷  わかりました。・・・ただ、困ったことになりました。
錦田  困ったことになったというのは、困ったことになったね。
渋谷  ええ。お父さんからは、宿題を手伝ってもらう分、ちゃんと掃除や洗濯はお前がやりなさい、という風に言われてきたんですけど・・・。
錦田  そういうわけですか。
渋谷  そういうわけなんです。
錦田  そういうわけならば、よろしく、お頼み申します。
渋谷  あ、はい・・・! よろしくおたのまれました!


#2

セミの鳴き声。

錦田  こんなのはどうだろうか!? 凍土怪獣フローズン!
渋谷  また怪獣ですか?
錦田  魅力的な怪獣がいてこそ、盛り上がるってものさ。
渋谷  そういうものですか?
錦田  疑っているな? この怪獣はすごいぞ。聞きたいだろう?
渋谷  あー・・・。あのですね、その前に、一言いいですか?
錦田  なんだなんだ、初日に見せてくれたやる気はどこへ行ったんだ!

セミの声。

渋谷  あのエアコンは飾りですか!?
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