サンザシの大蛇
「サンザシの大蛇」
作:修練
(原作:「希望」作:小林秀平)


【登場人物】

シエル

マスター

ペリドット







   
    舞台は町はずれの古い酒場。カウンターにマスターがいる。
    炭鉱夫のペリドットが入ってくる。

ペリド   やぁマスター、やってるかい。
マスタ   ペリドット、今日もお疲れ様。
ペリド   あぁ、疲れた、非常に疲れたよ。今日も体中が痛くて仕方ない
マスタ   なら帰って、嫁さんにでも甘えたらどうだ
ペリド   馬鹿を言っちゃいけねぇ。うちの嫁は夜になったら違う男の世話をしなきゃならねぇんだ。一銭にもならない俺のことなんか見向きもしねぇよ。
マスタ   はっはっは、こりゃ失敬。そうだったな。
ペリド   マスター、あんたも趣味の悪い冗談を言う。普通そういうことは黙っとくのが紳士ってもんだぜ。
マスタ   だぁれに紳士的なふるまいを求めてるんだ。俺は貴族街のウェイターじゃねぇんだぞ?
ペリド   それもそうか。こんな汚い酒場の大将だもんな。
マスタ   おっと、これでもここはバーなんだぜ。お前も他の客も、俺のことはマスターと呼ぶからな。
ペリド   マスターと呼ぶからってバーにはならないだろ。
マスタ   いいじゃねぇか。気分は凄腕バーテンダーなんだ。
ペリド   気分だけじゃねぇか。
マスタ   その気分が大事なんだよペリドット。こんなどぶくせぇ路地裏の酒場で、少しの高級感が味わえるんだ。俺はそんな良い気分をお前らに売ってんのさ。
ペリド   けっ、それじゃあ詐欺師となんも変わらねぇじゃねぇか。酒の安さだけが取り柄のこの店で、どんな高級感を味わえばいいってんだ。
マスタ   ペリドット。お前には想像力が足りない。いいか、物事ってのは捉えようなんだ。お前がこの店を王都サンザシ
イチの高級感漂うおしゃれなバーだと思えば、おのずと出る酒もうまく感じるもんさ。それでいて値段は安い!これに何の文句がある?
ペリド   まぁ、言わんとしてることはわかる。文句を言うとするならば、酒は安物のままだっていうのと、俺の想像力次第じゃねぇかってとこだな。
マスタ   わかってるじゃないか。そこがウィークポイントだな。
ペリド   それがウィークすぎるって言ってんだよ。
マスタ   なんだなんだ。今日は俺の経営方針に文句を言いに来たのか?酒を頼まないなら帰るんだな。お前の嫁さんと同じで、俺も一銭にもならない野郎の相手をするほど暇じゃないんでな。
ペリド   口の減らないじじぃだなぁ。今から頼むっての。そうだなぁ…。2番目に安い酒でも飲もうかな。
マスタ   ほう珍しい。いつもは迷わず一番安い酒を飲むくせに。何か、良いことでもあったのか?
ペリド   まぁまぁ。その話もゆっくりさせてくれよ。とにかく、この店で2番目に安い酒を頼む。
マスタ   はいよ。

    間。マスターが酒瓶をペリドットに渡す。

マスタ   ほら。
ペリド   お、来た来た。(飲む)カァーいいねぇ!ちょっといい酒ってだけでより一層美味く感じるなぁ。なぁマスター、この酒は、いったいどこから仕入れたものなんだぁ?
マスタ   あぁ、ドブの水だ
ペリド   ブーーーッ(吹きだす)。何飲ましてくれてんだてめぇ!待ておい、2番目に安い酒でドブの水なら、俺がいつも飲んでる酒はなんなんだ?
マスタ   豚のしょんべんだよ
ペリド   おえぇぇぇぇぇぇぇ
マスタ   冗談だよ。
ペリド   …ほんとに、趣味の悪い冗談を言うじじぃだぜ…。
マスタ   想像力が足りなくてよかったな。
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