さよなら王子さま
さよなら王子さま
女1
魔法使いのおばあさんは、わたしに魔法をかけた。
わたしを、いつものみすぼらしい姿から、
ドレスとガラスの靴を身に着けた、美しいプリンセスにしてくれた。
そして仲良しのねずみ達を立派な白馬に、かぼちゃを豪華な馬車に変えたのだ。
わたしはいつも夢みていた。
継母や姉達にいじめられながら。
お皿を洗いながら。床を磨きながら。
いつか舞踏会で、王子さまと踊ることができたら、と。
その夢がかなったのだ。わたしは今、王子さまと踊っている。
王子さまがやさしい瞳でわたしを見つめている。
いつまでも、いつまでもこの時間が続いたらいいのに。
だけど、鐘がなる。12時の鐘が。
ああ、魔法がとける時間だ。元の姿に戻ってしまう。
わたしは急いで階段をかけおりる。途中、ガラスの靴が片方脱げてしまったが、
拾っている暇はない。王子さまが、すぐそこまでわたしを追いかけてきている。
もしも、魔法がとけてしまったら、このまま魔法がとけてしまったら…
その時、王子さまはどんな顔をするのだろうか?
みすぼらしい、本当のわたしの姿になっても、さっきまでと同じ、
優しい瞳で見つめてくれるのだろうか。
わたしは立ち止まり、靴を取りに戻る。
王子さまは、わたしの残したガラスの靴を持って立ち尽くしていた。
魔法は、とけた。王子さまはとても驚いた様子でわたしを見つめている。
そして…なぜか消えなかったガラスの靴を、苦笑いしながらわたしに
返してくれた。
王子さまは城に戻った。さあ…わたしも帰ろう。
お皿洗いを残してきてしまった。早く片付けなくては。12時過ぎまでダンスを踊るなんて
どうかしてる。明日の朝も早いし、わたしはそんなに暇じゃない。
家に帰ろう、家に……一度は帰ろう。
かわいそうな自分には戻らない。待っているだけの夢はもう見ない。
家に帰ったら、かぼちゃをすべて捨てて、仲良しだったねずみ達を殺し、
最後にこのガラスの靴を叩き割ろう。
そしてわたしはわたしのまま、本当の恋を探しにいく。
さようなら王子さま。あなたはいつまでも、そこで踊っていたらいい。
女2
命を助けてもらった…というか、生き返ることができたのは、確かに
あなたのおかげ。でもね。いくらあたしがあなたの好みにドストライク
だったとしても、あたしやっぱり理解できないの。
だって、死体にキスなんてする?しないわよフツー。もう話、聞いてドン引き。
だって、考えてもみて?死体に何の躊躇もなくキスするような人、
今まで何にキスしてきたかわかったもんじゃないでしょ?
それを結婚なんてすることになったら…あたし、あなたとこれから何度も
キスしないといけないわけじゃない?あなたがお城の外で、何にキスして
きたかわかんない唇とよ?…ムリ。ほんとムリ。
そりゃああたしだってさ、今までいろいろあったわよ。なんか、変な…スピ系?
みたいなのにハマった継母に、顔がカワイイってだけで何度も殺されそうに
なったり、得体の知れない小さいじじいたちと同居することになったり?
でも…それなりによ?自分なりに、せいいっぱい頑張って生きてきたつもり。
いろーんなこと乗り越えて、今日までやってきたつもり。
でも、あなたとの結婚だけはほんとにムリ。
そういうことだから、じゃあ…
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