NARCISSUS
【登場人物】
  エドワード:人体カスタム専門店「ナーシサス」店主。
  リリー:「ナーシサス」の顧客。
      人体カスタム依存症。リリーの〈精神〉を宿す。
  アン:リリーの人体パーツから作られた人形。リリーの〈肉体〉を持つ。
  デイジー:リリーを溺愛する友人。
  ガードナー:「ナーシサス」の店番。
  イヴァン:リリーの恋人。
  探偵:イヴァンに雇われてリリーの人体カスタム疑惑を突き止めようとする。
  助手:探偵の助手。 
  【1】
  蒸気が吹き出し、機械が駆動する。それが静まれば、ナーシサスの本日の業務は終了だ。部屋の中は薄暗く、壁には大小様々な瓶やケースが並んでおり、その中には何かがぷかぷか浮かんでいる。埃や薬剤、湿気った木の匂いが鼻を突き、床はところどころ踏むとギシギシ鳴るし、照明は少し揺れただけで埃を落とす。手術室への廊下は薄暗い。ここはとある路地にひっそり佇む人体カスタムの店「ナーシサス」。この店の主・エドワードはお金を数えている。傍では、店番のガードナーが店を掃除している。
 
  エドワード    足が三組、腕が一組、鼻が二つに、目玉が二つ……まあ、悪くない。
  ガードナー     最近のカスタム?
  エドワード     ああ。
  ガードナー     顔のパーツ以外も増えてるわよねェ。
  エドワード     ああ。
  ガードナー     どっちのほうが難しいの?
  エドワード     どっちって?
  ガードナー     顔と、顔以外。
  エドワード     ああ……。足は体重が乗るから、希望の通り作るだけじゃ使いもんに
  ならなかったりする。まあ、目玉の神経繋ぎなおすとか、皮膚張り替えるよりマシか。
  ガードナー     そういうものなのねェ。
  エドワード     (金を数え終えて)今日は終いにするか。
  ガードナー     少し早いんじゃない?
  エドワード     今日くらいいいだろ。最近手術ばっかりで疲れてんだ。
  ガードナー     本当、お客さん、増えたわねェ。忙しいでしょ。
  エドワード     まあな。
  ガードナー     あたしは店番の仕事が増えて嬉しいわよ。なんだか、目ん玉やら指やらがぷかぷか浮いている瓶を見つめてると、時間が早く過ぎるのよねェ。
  エドワード     大抵は気持ち悪がるんだがな。
  ガードナー     そうかもねェ。お客さん、おっかなびっくり入ってくるもの。ちょっ
  と内装変えたほうがいいんじゃない? 気味の悪い人体パーツは隠して、オシャレな空間にしてみるとか。ねェ?
  エドワード     余計なお世話だ。
  ガードナー     それに、アンタ、その仏頂面! それもお客さんを怖がらせてるのよ。
  エドワード     ほっとけ。嫌なら来ないでいい。
  ガードナー     そんなんで、どうしてお客さんが増えたか不思議よねェ。
  エドワード     雇い主に向かって散々だな。
  ガードナー     あ、そうだ、今朝の新聞読んだ?
  エドワード     いや。
  ガードナー     人体カスタムが取りあげられてたのよ。
  エドワード     どうせロクなことじゃない。
  ガードナー     人体パーツ大量廃棄の悪臭問題だって。
  エドワード     そら見ろ。
  ガードナー    なんでも、大手が顧客のパーツを大量に廃棄するときに匂うんだって。
  エドワード     ぽいぽい捨てるからだろ。
  ガードナー     やっぱり、焼いてから捨てればいいんじゃないかねェ。コンパクトに
  なるし、匂いも気にならないんじゃない?
  エドワード     捨てなきゃいいんだ。
  ガードナー     それは無理よ、管理とか大変だもん。
  エドワード     戻したくなったらどうするんだ?
  ガードナー     戻す人なんかいないでしょ。元のパーツが嫌いでカスタムするんだか
  ら。
  エドワード     だが──。
 
      リリー、入店。
 
  ガードナー     あら、リリーさん。
  リリー  よかった、まにあった。
  エドワード     今閉めようと思ってたんですがね。
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