東京メランコリニスタ【vol.13】
傀儡たちの詩
 「原罪の塔」上階、展示フロア。

 廊下に並べられた作品を眺めながら歩く御堂。
 一人の男が後ろから声をかける。

逆叉:おい。
御堂:ああ、逆叉(さかまた)さん!
御堂:着いてたんだ。よくここがわかったね。
逆叉:電話出ろや。無駄な時間食ったろうが。
御堂:ごめん! ちょっと切ってたんだよ。
御堂:もーひっきりなしでさ。全然作品見れないし。
逆叉:ッたく……。

 御堂の横に並び立つ逆叉。
 横目で作品を見る。

逆叉:こんなもん見てる暇なんてあんのかよ。
御堂:んー? だって今は特にやることないしさ。
御堂:一度ゆっくり観たかったんだよ、十環(とわ)くんのアートは。
逆叉:わかんねぇな。何が良いのか俺にはサッパリだ。
御堂:俺もわからないけどね。
逆叉:ああ?
御堂:けど、こうやってじっくり観てるとだんだん浮かんでくるんだ。
御堂:たぶん、この作品はこういう気持ちで作ったんだろうなぁ……って、おぼろげにね。
御堂:無意識に反映されてるんじゃないかな。
御堂:そういうの考えながら観ると、案外面白いよ。
逆叉:ふん……ますますわかんねぇよ。
御堂:わからないなりに楽しむもんじゃないっすかね、アートって。知らんけど。

 朗らかに笑う御堂が逆叉に向き直る。

御堂:それで、どうしてわざわざ来てくれたの、逆叉さんは。
御堂:会うのは事が済んでからでもよかったじゃん。
逆叉:そういうわけにはいかねぇよ。
逆叉:一世一代の祭りだぜ。スポンサーとしちゃ見逃せねぇだろ。
御堂:本当にスポンサーとして、かな?

 肩をすくめる逆叉。

逆叉:世間話しに来たんじゃねぇんだぜ。
逆叉:人間観察はよそでやってくれや。
御堂:はは、「時は金なり」ってか……まぁいいや。
御堂:奥で話す? お茶くらいは出せるよ。
逆叉:いや、ここでいい。
御堂:あ、そう……。
逆叉:本題だ。蜂須賀(はちすか)の奴がここへ来る。
御堂:へぇ! マジで?
逆叉:渋谷に向かってるらしい。連絡が入った。
御堂:そっかそっか。まぁ、このまま消えることはないって思ってたけどね。
御堂:久しぶりだなぁ、元気なの彼?
御堂:俺には全然連絡くれないんだもんなぁ。
逆叉:……随分とのん気だな、あんた。
逆叉:外の状況わかってんのか?
御堂:んー? 現場のことは雪音(ゆきね)くんに任せてるからさ。
御堂:何かあったら電話で……ってヤベ、切ってたんだっけ、ははッ。

 笑いながらスマホの電源を入れる御堂。

逆叉:あんな小僧一人にまとめられるかよ。
逆叉:各エリア大混乱だぜ。有志のMeTuber(ミーチューバー)が情報インフラの流れを整理しちゃいるが……。
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