海底探検
「海底探検」

海 ・・・ 科学者の卵。
湊 ・・・ 海の幼少期の育成プログラム。本物の湊も存在する。
深水・・・ 科学者。 A
雲珠・・・ 湊の先輩。海底登山家。 B



雲珠   いいか? 二人とも。海底登山の基本は、コンパスで方角をよく確認することだ。それから、残り時間にくれぐれも気を付けることだ。酸素ボンベには、決まった量の酸素しか入っていないからな。海の中の山はな、ジュール・ヴェルヌの発表した「海底二万マイル」っていう小説の中で出てくるんだ。ノーチラス号に乗っていたピエール博士、召使のコンセイユ、銛の名人ネッド・ランドは、ネモ船長に連れられて、海底を散歩する。その様子が鮮やかに脳内に浮かび上がってきて、これは、もう、・・・登るしかないなって!
海     博識なんですね。
雲珠   父は、科学者だったんだ、海くん、君と同じでね。だが、おれは出来が悪い息子でね。こんな風に自由に生きるしかなかった。・・・ほら、ここからの景色は最高だろう!? こんな場所に来られたら、何もかもが、小さなことに思えてくるんだ!



中央で、うずくまって座っている海。
唐突に目を覚まして、叫ぶ。

海   待ってくれ!
湊   ・・・と、ぼくは言った。
海   ・・・それはぼくじゃない。
湊   ・・・と、ぼくに言った。
海   ぼくはそんな非道いやつじゃない。
湊   非道いことをした。
海   だけど、それはぼくの・・・
湊   探検の結果だ。
海   探検をしなかった場合の結果だ。ぼくは決めたんだ。
湊   これは現実か?
海   未成年が受ける学習プログラムだと・・・思う。
湊   そこには心があるのか?
海   分からない。シミュレーションされたものに、魂は宿るのか・・・。
湊   どこまでがプログラムによるシミュレーションなんだ。
海   何度も練習したんだ。よりよく生きていくために必要なんだ。
湊   さっきも必死に言っていたじゃないか。「待ってくれ」って。
海   練習だから、「待った」ができるんだ。
湊   いつから本番が始まるんだ?
海   大人になったらかな。
湊   練習は本番のように、っていうじゃないか。
海   本番は練習のように。
湊   でも、きっとぼくらの人生は、どれが練習かなんて分からない。
海   そうなんだろうな。
湊   探険するのか。
海   険しい場所を探してこその探険ですから。
湊   どうせ、これも練習じゃないのか?
海   分からない。ただ、・・・ぼくを・・・ぼくたちを見守っていてほしい。そう思う。



病院の廊下かもしれないところ。点滴の支柱を持ったまま、2人。

A   ちょっとお待ちになってください。
B   あら、深水さんじゃありませんか。
A   そちらこそ、雲珠さん。
B   こちらこそ、雲珠です。今日はずいぶんとお顔色もよろしいようで。
A   それはお互い様ですわ。
B   では・・・退院
A   そろそろ・・・退院・・・
B   この病院ともおさらばで退院・・・なんてことはありませーーん!
A   なんてことはないんですか!
B   いえいえ、なんてことはあるんですから、こうして入院しているわけですよ。
1/13

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム