海底探検
「海底探検」
海 ・・・ 科学者の卵。
湊 ・・・ 海の幼少期の育成プログラム。本物の湊も存在する。
深水・・・ 科学者。 A
雲珠・・・ 湊の先輩。海底登山家。 B
雲珠 いいか? 二人とも。海底登山の基本は、コンパスで方角をよく確認することだ。それから、残り時間にくれぐれも気を付けることだ。酸素ボンベには、決まった量の酸素しか入っていないからな。海の中の山はな、ジュール・ヴェルヌの発表した「海底二万マイル」っていう小説の中で出てくるんだ。ノーチラス号に乗っていたピエール博士、召使のコンセイユ、銛の名人ネッド・ランドは、ネモ船長に連れられて、海底を散歩する。その様子が鮮やかに脳内に浮かび上がってきて、これは、もう、・・・登るしかないなって!
海 博識なんですね。
雲珠 父は、科学者だったんだ、海くん、君と同じでね。だが、おれは出来が悪い息子でね。こんな風に自由に生きるしかなかった。・・・ほら、ここからの景色は最高だろう!? こんな場所に来られたら、何もかもが、小さなことに思えてくるんだ!
*
中央で、うずくまって座っている海。
唐突に目を覚まして、叫ぶ。
海 待ってくれ!
湊 ・・・と、ぼくは言った。
海 ・・・それはぼくじゃない。
湊 ・・・と、ぼくに言った。
海 ぼくはそんな非道いやつじゃない。
湊 非道いことをした。
海 だけど、それはぼくの・・・
湊 探検の結果だ。
海 探検をしなかった場合の結果だ。ぼくは決めたんだ。
湊 これは現実か?
海 未成年が受ける学習プログラムだと・・・思う。
湊 そこには心があるのか?
海 分からない。シミュレーションされたものに、魂は宿るのか・・・。
湊 どこまでがプログラムによるシミュレーションなんだ。
海 何度も練習したんだ。よりよく生きていくために必要なんだ。
湊 さっきも必死に言っていたじゃないか。「待ってくれ」って。
海 練習だから、「待った」ができるんだ。
湊 いつから本番が始まるんだ?
海 大人になったらかな。
湊 練習は本番のように、っていうじゃないか。
海 本番は練習のように。
湊 でも、きっとぼくらの人生は、どれが練習かなんて分からない。
海 そうなんだろうな。
湊 探険するのか。
海 険しい場所を探してこその探険ですから。
湊 どうせ、これも練習じゃないのか?
海 分からない。ただ、・・・ぼくを・・・ぼくたちを見守っていてほしい。そう思う。
*
病院の廊下かもしれないところ。点滴の支柱を持ったまま、2人。
A ちょっとお待ちになってください。
B あら、深水さんじゃありませんか。
A そちらこそ、雲珠さん。
B こちらこそ、雲珠です。今日はずいぶんとお顔色もよろしいようで。
A それはお互い様ですわ。
B では・・・退院
A そろそろ・・・退院・・・
B この病院ともおさらばで退院・・・なんてことはありませーーん!
A なんてことはないんですか!
B いえいえ、なんてことはあるんですから、こうして入院しているわけですよ。
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