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す・ぴーーち！

（登場人物）
①大井川アダム（おおいがわあだむ）遅咲きの売れっ子漫画家。主に本格サスペンス漫画を描いている。
②戸森コモモ（ともり　こもも）25歳。アダムのアシスタント。漫画家デビューを目指して奮闘中。
③高見沢ユキ（たかみざわゆき）　年齢不詳。女優。人呼んでサスペンスドラマの女王。大井川の憧れの人。
④コモモの母親(存在のみ。登場はしない)　娘が漫画家になるのを大反対している。
　　　　　　　
セット→大井川アダムの仕事部屋。漫画を描くために作業するデスク、来客用にテーブルと椅子を配置。（場所はご自由に）
　　　　　　　
開演
　　　　　　　　
舞台中央　コモモが立っている。
　　　　　　　
コモモ「それでは皆様、たいへん長らくお待たせいたしました。『漫画好きが選ぶ「今勧めたいサスペンス漫画」』略して「今サス」大賞を受賞された大井川アダム先生のご登場です！大きな拍手でお迎えください！」
　　　　　　　
コモモ　拍手をしながら横にずれる。
スポットライト。アダム　登場。
　
アダム「(原稿を開いて読む)えー、ご紹介に預かりました大井川アダムです。このような素晴らしい賞を頂けるなんて…10年前の自分が知ったら腰を抜かすでしょうね。改めて、これまで支えてくださった皆様に感謝を申し上げたいと思います、本当にありがとうございます。実は、奈良の大田舎から東京へ出てきたとき、売れる自信しかなかったんです。(コモモの大袈裟な笑い声)でも現実は全く甘くなく、新人賞を頂いたあと、ひどいスランプに陥りました。描けないわたしを尻目に同期はどんどんヒットを飛ばし、あいつの受賞はマグレだったんだと陰口を叩かれる日々。収入が途絶え、電気や水道を止められ、家賃を払えずアパートを追い出されたこともあります。ああ、ご心配なく。すでに当時の大家さんとは和解済みですから。(またコモモの大袈裟な笑い声)それでも、どん底を味わったわたしでも、こうして大きな賞を頂くことができました。ですから、言いたいことはただひとつ。夢は必ず叶う！ーー諦めなければ！」
　　　
大きな歓声。
アダム　笑顔から急に真顔になる。
　　　　　　　
アダム「なーんて言うと思うか！バーーーーカ！！！」
　　　　　　　　　　　　
アダム　原稿を床に叩きつける。
全照明　オン。
　　　　　　　
コモモ「あー！どうして？！気持ちがこもっていて、すごく良かったのに！」
　　　　　　　
コモモ　床に散らばった原稿を慌てて集める。アダム　苛立ったように椅子に座る。
　　　　　　　
アダム「なーにが『諦めなければ夢は叶う』だよ？綺麗事を抜かしやがって、薄っぺらい薄っぺらい！鹿せんべいより薄っぺらいな！」
コモモ「ひどーい！先生がスピーチなんて書けないって騒いだから、主催者側が文章を考えてくれたのに！」
アダム「これでわかっただろ？俺にスピーチなんて無理なんだよ。今からでも遅くない、担当の山岸さんに出席を辞退するって連絡して…。」
コモモ「普通に遅いですから。1週間前にキャンセルなんてオトナがすることじゃありませんから。」
アダム「じゃあ、祖父が危篤ってことにしない？」
コモモ「却ッッッ下！！」
アダム「ちっ。」
コモモ「そもそもなんでそんなに気乗りしないですか？みんな期待しているんですよ。遅咲きで苦労人のアダム先生がスピーチをすれば、漫画家を目指す人に夢を与えることが出来るって。」
アダム「夢、ねえ。」
コモモ「そうですよ。」
アダム「……でも、それって無責任じゃないか。」
コモモ「無責任？」
アダム「俺はさ、たくさんの天才たちが漫画家の道を挫折するのを嫌になるほど見てきたのよ。とんでもなく絵が上手くても、ストーリーが抜群に魅力的でも、デビュー出来ると限らない。それがこの世界の厳しさだ。君もそれを身にしみて実感しているだろ？」
コモモ「それは…。」
アダム「だからこそ…、簡単に口に出しちゃいけない言葉もあるんだよ。」
　
しんみりとした雰囲気になる。
　
コモモ「ーーお気持ちはよく分かりました。だ、け、ど！大事なことを忘れていますよ。」
アダム「はいはい、覚えているよ。健康診断の再検査は来週だろ。」
コモモ「それも大事ですけど、違います。（机の上に置いてあった高見沢の雑誌を見せながら）ほら！今回の授賞式、先生の大好きな女優　高見沢ユキさんがプレゼンターじゃないですか。」
アダム「（目をパチパチさせて）……はっ！！！！」
　　　　　　　
アダム　立ち上がってコモモから雑誌を奪い取る。
　　　　　　　
アダム「そうだった、サスペンスドラマの女王、高見沢ユキ様に会えるんだ！高山のユリのような凛とした佇まい、どこまでも伸びていく美しい声…。はああ…間近で見たらどうなっちゃうんだろう…。（雑誌を抱きしめる）」
コモモ「わかります、わかります。同性から見てもかっこいいですもん。えーと、なんでしたっけ。彼女の名前を一躍世間に広めることになった、あの代表作…。」
アダム「『ナニワの人情女弁護士　鬼怒川アリスの事件簿』さ！」
　

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