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ヒトデナシ

R５並木祭公演脚本、「ヒトデナシ」　　

登場人物

アケミ：角島大学3年
サオリ：角島大学3年
シイナ：角島大学2年
リュウジ：角島大学1年生

ジョウシマ：オカルト雑誌ライター
ミカ：新人編集

ヒトヨシ：廃墟の主
手錠の男：廃墟に住んでいる謎の人物　　

　Scene1
　
　スポット、サオリが椅子に座っている
　サオリ：　ある男がハイキングに出かける。道中、この男は不運にも沼のそばで、突然雷に打たれて死んでしまう。その時、もうひとつ別の雷が、すぐそばの沼へと落ちた。なんという偶然か、この落雷は沼の汚泥と化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう。
　
　「この落雷によって生まれた新しい存在のことを、スワンプマンと言う。スワンプマンは、死ぬ直前の男と全く同一の構造を呈しており、見かけも全く同一である。もちろん脳の状態も完全なるコピーであることから、記憶も知識も全く同一であるように見える。沼を後にしたスワンプマンは、死ぬ直前の男の姿でスタスタと街に帰っていく。
　
　アケミの言葉を合図に明転
　
　アケミ：　　　　　ちょっと、タンマ！
　サオリ：　　　　　何？ここからがいいところなんだけど
　アケミ：　　　　　……ごめん、途中から何言ってるか全然分かんなかった…
　サオリ：　　　　　そんな調子だと単位落とすよ。
　アケミ：　第一書き方が分かりにくいよ。死んだ男が死んだ男がって、もっとわかりやすい書き方あったでしょ。
　サオリ：　んー、じゃあ、分かりやすく言うと、自己と同一の物質から構成される非自己存在についての話。
　アケミ：　うわ、余計ややこしくなった
　サオリ：　要は見た目も同じだけど自分とは違う生き物が現れたらどうするかってこと。
　アケミ：　おお、分かりやすい。サオリ、あんた実は頭良かったんだね。
　サオリ：　うるさい（軽く頭をはたく）
　アケミ：　いってー、やめてよ、今頭怪我してんだからさ。
　サオリ：　いやまぁ確かに馬鹿は頭の怪我だけど……
　アケミ：　違うわ！物理的に怪我してんの！
　サオリ　：　　　またどうして？
　アケミ：　なんか家の近くの電柱に頭ぶつけた、みたい。
　サオリ：　みたい？
　アケミ：　いや、何か大家さんによると、朝ごみ捨てにでたら電柱の前で私が寝てたらしい。
　サオリ：　馬鹿にアル中……こりゃ救いようないな。
　アケミ：　なんだと！
　サオリ：　昔のアケミは優等生だったのになー。いつからこうなっちゃったのか。
　アケミ：　うるさいなぁ。
　サオリ：　それより、レポートは良いの？題材が見つかんないって泣きついてきたのはアケミでしょ？
　アケミ：　あ、そういやそうだった。
　サオリ：　そういやって
　アケミ：　いやー、やっぱり部室が居心地よくってさー…
　サオリ：　っていうか哲学取ってない私に頼むより、もっと詳しい人に聞いた方いいんじゃないの？
　アケミ：　例えば？
　サオリ：　うーん、あ！加藤先生とかどう？
　アケミ：　えー、よりによってカトキチ？
　サオリ：　なんでよ、評判良かったじゃん？
　アケミ：　いや、昔は良い人だったらしいけど、なんか今年に入ってから急に厳しくなったんだよねー。ちょっと遅刻しただけですーぐ怒鳴るし。
　サオリ：　へえ、不思議なこともあるもんだね。
　アケミ：　　　　　きっと、最近論文が評価されて調子乗ってんだよ。
　サオリ：　なるほど、つまり楽単科目から落単科目に様変わりってこと？
　

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