【一人芝居】SONZAIRON
SONZAIRON
作:健康


春原晴生(ハルバルハルオ)19歳。この脚本は春原の一人芝居。
♪ はギター、歌、ピアノなどの生演奏を想定しているが、音源でもよい。

【登場人物】
大ちゃん(ダイチャン)フトン屋の息子。
寺崎(テラサキ)大ちゃんの友達。
リサ(リサ)不思議な女の子。
♪ 駅の前で音楽をする人。

⓪ 一度目の四月一日
    舞台に春原。目の前にリサさん。
    ♪:スピッツ「春の歌」

春原 「リサさん。俺…。いや、何でもない。…暑いね」

    暗転。

①    A 四月一日

    明転。
   
春原 「冬がもうすぐ終わるから、若人どもが春うらら、ダウンを脱いでつぼみが花開くように、桃色の吹雪に煽られぽかぽかボカボカ浮かれあっているこの春というものが、どうも俺の目にしみる。花粉ではない。春がどうも目に染みるのだ。…19年、何があった。真っ白いキャンパスという言葉は希望に使うべきではない。これは、俺にあったはずの無限の光を、全て掴むことができなかったが故の、純白なのだ」

    春原、電車の車掌に肩を叩かれる。
    終点の駅についていたことに気付く。
    目を合わせず、そそくさと電車を降りる。
    駅のホームの階段を降りながら。

春原 「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。10、9、8、7、6、5、4、サンッイチ!!」

    階段を踏み外してこける。
    すぐに立ち上がろうとする。
    ♪:尾崎豊「15の夜」

春原 「初めて観た演奏に、何が起こったのか、体は言わずもがな、ついに頭すら動かなくなってしまった。このまま四月一日にずーっと囚われるのではないか。それでも良いような気がした。「世界よ、どうかこのままあれ」と願ったところで、太い声が耳に響く」

大ちゃん 「おいおまえ。俺とバンドしねえ?」

春原 「これが油でギトギトした大男、通称大ちゃんとの出会いである。大ちゃんは、地元の私立大学に通う俺の一つ先輩で、軽音サークルに所属している。が、持ち前の油とニンニク臭から元居たバンドを脱退させられ、自分でバンドメンバーを集めていた。俺は「音楽をしたいならそこのピアノを弾いている人に声をかけるべきだ」と言うと、もう既に強く断られたらしい。勧めておいてなんだが、ナイスと思った。あなたのように素晴らしい演奏をする人は、ぜひとも油のない生活を送ってくれ。だが、俺はどうだろうか。一歩踏み出すなら今なのではないか。しかし!・・・男が音楽経験は問わないからとにかく一緒にバンドをしようと手を出した。経験は問わない。ただそれだけの言葉だのに、俺の手は震えながら男の手に向かっていた。19年「はねる」の技しか覚えなかった、この俺がこのような行動を取ったのは何故か」

春原 「春の匂いがした、四月一日だった」

大ちゃん 「ありがどうっ!」

    大ちゃん、春原の手を上から握る。

春原 「…手だけ洗ってもいいだろうか」

①    B 大ちゃんのバンド

春原 「駅前の商店街アーケードをくぐって二つ目の角右手に見える布団屋が大ちゃんの実家、その上二階に大ちゃんの部屋があり、ここでバンドの稽古をする。布団屋のおばさんは「賑やかでいいわね」と言った。ここで、いかれたメンバーを紹介しよう。ドラム、アンドなぜかボーカル、大ちゃん!なぜかこの男は歌も歌う。なぜだ、なぜ歌うんだ。決して美声とは言えないが、まあ、うん、声が大きくていい。次にベース、寺崎。彼は大学で大ちゃんの唯一の味方だったらしい。いかにもな好青年で、俺と違って人望もあって、昔の俺ならきっと毛嫌いしていた。しかし今の俺は人間である。人であるならば人とのコミュニケーションは当然であろう。それに、寺崎は楽器を持たない俺にギターを貸してくれた。優しい男だ。そう、最後に、ギターがこの俺。春原晴生」

    春原、ニヤニヤする。

春原 「はあーっ!「食事・睡眠・桃色視聴♡」しか予定のなかった俺が、変わった!自分が特別みたいだ、いや特別だ!はあーっ!!5月の初ライブに向けて、学校が終わると帰宅部で鍛えられた走力で大ちゃんの家へ。ギターを弾き、ギターを弾き、ギターを弾き、目の前のラーメン屋へ。大ちゃんの影響で、三週間毎晩ラーメンという実績を解除し、体重が5キロ増えるというトロフィーを得た。誰かと食うラーメンが、何かをした後のラーメンが、こんなにも美味しいなんて。どうして俺は知らなかったんだろう」

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