うたかた
うたかた
オープニング
幕が上がる。婆が川で洗濯をしている。
婆 ああ手が冷たい。一人分とはいえ動けば汗をかくし、何日も同じものを着るわけにもいかないし。しかもそろ
そろ二人分に増えるしなぁ。
手を休める。
婆 明日には着く頃かしら。ちゃんと稼いだ分を持ってきてくれるといいんだけどね。
洗濯物を籠に入れる。
婆 よいしょっと。ああ重い。洗濯も重労働だわホント。
腰をさする婆。黄鬼が後ろを通りかかり、慌てて木陰に隠れる。
そこに下手から桃が運ばれてくる。
婆 え? な、何。
桃を運んできた使いが目の前で止まり、桃を差し出す。
婆 な、何ですか。
使い これは、桃です。
婆 は? こんな大きな桃なんて見たことない。(警戒して)あんた誰だい? これで何をしようっていうの。
使い この桃をお婆さんに渡すようにと。
婆 私に? 誰が?
使い (微笑むだけ)
婆 誰が何のために私にこんな大きな桃をよこしたっていうの。
使い 確かに渡しましたよ。はい。(桃を渡す)
婆 重っ。ちょ、ちょっと待って、どうしろと、これを。
使い (帰りかけて)お爺さんが出稼ぎから戻ってくるお祝いにでも。
婆 ……なんでうちの人が都に出稼ぎに行ってることを知ってるの。
使い (微笑む)このご時世じゃ柴刈りだけでは食べていけないでしょう。
婆 あんた一体誰。
使い ご安心ください、毒入りの桃ではありません。ただ、毒にするか宝にするかはあなたたち夫婦次第。
婆 宝?
使い では。
使いが去っていく。婆は桃を置いて訝しげに眺める。
婆 不老不死の桃の実が、毒となるのか宝となるのか。……さっぱりわからない。とりあえず、うちの人に食べさ
せてみるか。
持ち上げようとするが重くてバランスを崩す。
婆 くれたのはいいけど、重いし、このままじゃ目立ち過ぎる。さて、どうしたものか。
その様子を見ていた黄鬼が風呂敷を木陰にそっと置く。
婆 (風呂敷に気づき)おや、こんなところにいいものが。誰かの忘れ物だろうか。
辺りを見回す。
婆 誰か知らないけど、きっと困ってる私を見て授けてくださったに違いない。
桃を風呂敷に包み、去っていく婆。その後ろ姿を見送って木陰から出てくる黄鬼。
場転。
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