東京メランコリニスタ【vol.12】
ボックス!
 あるチャンネルの動画が再生され、中央に爽やかな笑顔で仁王立ちするケビンが映し出される。

ケビン:皆さん、こんにちはッ!
ケビン:「ケビン・フィットネス・チャンネル」です!
ケビン:今日も楽しく! 元気に! 筋肉の脈動を感じていきましょうね!
ケビン:今日はね、好評だった時間がない人に向けたメニューの続編です!
ケビン:お家でできるお手軽トレーニングシリーズをご紹介したいと思います!
ケビン:なんと1セット5分でできてお腹周りにバッチリ効きます!
ケビン:最初のうちはちょっとキツいかもしれないけど、慣れるまで一緒に頑張っていきましょう!
ケビン:それでは……レッツ・マッスル!

 満面の笑みでサイドチェストを決めるケビン。
 動画は続いていく。
 
 東京、某所。
 オフィス街の中心に位置する商業ビル。
 自身の会社の応接室にて、ソファに腰掛けているケビンに伊丹が話しかける。

伊丹:時にケビンくん。「アン・クトー」の日程が近づいているが、準備の方に差し支えはないのかね。
ケビン:オフコース! 全く問題ないよ!
ケビン:皆早く暴れたくてウズウズしてる……まるで闘牛のようさ!
伊丹:履き違えてはいかんといつも言っているだろう。
伊丹:単に暴れるのではない。「自衛の為の鎮圧化」だ。
ケビン:おっと、これは失礼!
伊丹:「持たざる者」たちは数こそ多いが、しょせん武装を施した素人の集団。
伊丹:抑え込むのは容易だろう。
ケビン:全く、御堂(みどう)くんには恐れ入るね!
ケビン:これだけの人数を意のままだなんて……。
伊丹:そうだな。彼の人心誘導術……いや、操作と言った方が正しいか?
伊丹:瞠目に値する。
ケビン:意志なき偽物の筋肉なんて、我がジムの同志たちの敵じゃないよ!
ケビン:ひとひねりだね! 上腕二頭筋で!
伊丹:ああ……。だがわかっているな。
伊丹:騒動の中で「奴ら」が介入してきた場合は話は別だ。
ケビン:「鹿羽組(しかばねぐみ)」の連中かい!?
伊丹:いかにも。内部崩壊の一途をたどる奴らだが、腐っても関東最強のヤクザだ。
伊丹:特に若頭の力は脅威と言わざるを得ない。
伊丹:万が一……。
ケビン:ノォ・プロブレムッ!

 人差し指を立て、伊丹の言葉を制するケビン。

ケビン:むしろね、僕は歓迎さえしているよ!
ケビン:最高じゃないか! 筋肉と筋肉は美しく惹かれ合うッ!
ケビン:もし彼らが現れた時は僕に任せてほしい!
伊丹:……まぁ、どの道君に任せる他はない。
伊丹:物理的か社会的か……いずれにしろ消えてもらう烏合の衆だ。

 ケビンのにこやかな笑顔にだんだんと狂気がにじんでいく。

ケビン:ははッ、楽しみで仕方がないね!
ケビン:鍛えに鍛えた筋肉を開放する瞬間!
ケビン:何事にも代えがたい……!

 その様子に小さく息をつく伊丹。

伊丹:やれやれ……。

伊丹:(準備に滞りはない。この計画には今後の東京の在り方に関わる重要な意義がある。)
伊丹:(日本における中心地。ひいてはこの国の未来にも繋がってくるのだ。)
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