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殴れメロス

「殴れメロス」

原作：太宰治「走れメロス」
脚色：髙梨辰也

　　　うす暗い明かりに浮かぶ人々。

民たち　　　メロスは激怒した。
民　　　　　必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
民　　　　　メロスには政治がわからぬ。
民　　　　　メロスは、村の牧人である。
民　　　　　笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。
民　　　　　けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
民　　　　　きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のシラクスの市にやって来た。
民　　　　　歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。
メロス　　　……な、なんじゃこりゃあー！

　　　世紀末を思わせる某アニメのオープニング、カットイン。
　　　兵士たち、シラクスの民を迫害する、地獄絵図。
　　　民の中には抵抗する者もあるが、劣勢。
　　　メロスが加勢し、なんとか兵士たちを撃退する。
　　　音楽とともに、戦闘終了。

メロス　　　何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが。
民　　　　　王様は、人を殺します。
メロス　　　なぜ殺すのだ。
民　　　　　悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。
メロス　　　おどろいた。国王は乱心か。
民　　　　　いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。
　　　　　　きょうは、まちの中でも腕のたつ六人の英雄たちが、あらぬ謀反の疑いをかけられて連れて行かれました。
民　　　　　ネルヴァ様！
民　　　　　トラヤヌス様！
民　　　　　ハドリアヌス様！
民　　　　　アントニウス＝ピウス様！
民　　　　　マルクス＝アウレリウス＝アントニウス様！
メロス　　　……あと一人は？
民たち　　　……誰だっけ？
民　　　　　とにかく、私たちは暴君ディオニスの圧政に苦しめられているのです。
民　　　　　助けてください、旅のお方！
メロス　　　わかった、俺なんかでよければ、力を貸そう！
民　　　　　ありがとうございます！
民　　　　　しかし、どうやって。
メロス　　　みんなで城になぐり込むんだ！
民たち　　　おおっ！
民　　　　　それで！？
メロス　　　話し合おう。話せばわかる。
民たち　　　なんだよ。
メロス　　　話してだめなら……殴るだけさー！
民たち　　　いえーい！
民　　　　　ありがとう、旅のお方！
メロス　　　俺の名は、メロス！いくぞ、みんな！
民たち　　　殴れ！メロス！

　　　勇ましい音楽。
　　　城門を突破し、場内を駆け抜けていくメロスたち。
　　　暴君ディオニスが現れる。

ディオニス　この短刀で何をするつもりであったか。言え！
メロス　　　市を暴君の手から救うのだ。
ディオニス　おまえがか？仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。

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