【二人芝居】願い事は何ですか ?
登場人物
  紘基(こうき。咲希の夫)
  慧介(けいすけ。咲希の弟)


   「病院へ向かう車内」
   紘基、登場。

紘基  本当に直行しなくて大丈夫か?
――   (妻の咲希(さき)との掛け合いのため、少し間を置く)
紘基  それにしても、彗(すい)君の入院してる病院の近くを通りたいって。 本当に仲がいいな
――   (咲希との掛け合いのため、少し間を置く)
紘基  確かに。 子供が生まれたら、なかなか会いにも行けなくなるもんな。
    ん? うわっ!

   紘基、情景描写・説明。
   臨場感を出すために、特に前半は早口で言う。

紘基  対向車線。 白線を跨ぎ、どんどんとこちらに迫り来るトラック。
    避け切れるか? 咄嗟(とっさ)に急ブレーキを踏み、ハンドルを切る。
    トラックが、もう目の前に! と、同時に、視界の端で動く大きな何か。 咲希の身体が宙を舞い、フロントガラスへと吸い込まれていく様(さま)。
    あぁ、そうだ。 お腹が辛いから、シートベルトを締めないと言ってた。
    咲希が。 俺たちの子供が!
    ハンドルから手を離し、必死に手を伸ばす。
    頼む、届いてくれ! 届けっ!

   「謎の空間」
   暗転。

   紘基、寝転がっている。

   薄暗い中、紘基にのみスポットライトが当たる。
     
紘基  ……ん? ここは、どこだ?
    気が付けばそこは、薄暗く、ただっ広いだけの空間。 その床に、たった一人、寝転がっていた。
    確か、咲希を病院に送っていく途中で……。 そう、それでトラックが……っ!
    っ! 咲希! 咲希!

紘基  誰もいない場所。 大声で叫んでいるはずのその声すらも、己(おのれ)の耳には返ってこない。
    叫ぶ。 叫ぶ。 叫ぶ!
    誰か答えをくれ。 ここはどこなんだ。 妻は……子供は無事なのか!

紘基  けれども、しかし、どこからも答えなど返ってくるはずもなく。 そんなことなど勿論なく。
    それでも俺は、声を荒(あら)らげ続けた

紘基  咲希! 咲希!

紘基  わかっている。 わかってはいるんだ。
    あれだけの事故。 痛みを感じていない身体。 どこも怪我をしていない自分自身。 家を出発したときの綺麗なままの服。
    そう。 ここは……現実じゃない
    だから、何だ? 現実じゃないとわかったところで、何だと言うのだ!
    妻は? 子供は? 不安からなのか、苛立ちからなのかわからない感情が、左から、右から、上から、と、どんどん……どんどんと押し寄せてくる

紘基  頼むから、誰か何か言ってくれよ! 教えてくれよ! ……なんなんだよ、ここは……!
    叫ぶのをやめ、膝に手を付き、再度周りを見渡す。

   周囲が明るくなり、左右に伸びる通路のある円形の舞台と、円の中央に置かれた椅子が見えるようになる。

紘基  すると、一段高くなっている場所があることに気が付く。 膝から手を放し、フラフラとそこへ近づく。
    円形。 そこから、左右に長く伸びる通路。 また、円の中央には椅子がぽつんと一つ、置かれていた。
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