僕らの芝居のつくりかた
僕らの芝居のつくりかた


谷山想(たにやま そう)

角田岳人(かくた がくと)

杉浦杏奈(すぎうら あんな)

望月翠(もちづき すい)

峰岸九音(みねぎし くおん)


 机の上に携帯。着信音が鳴る。違う部屋から谷山想がやってくる。

 やや躊躇しながらも、電話を取る

 

想「もしもし、はい、はい、分かってる。今週中に仕上げるって。は?進捗状況?そりゃあもう、ほとんど出来上がったようなもんだって。俺が締め切り守らなかった事ある??…え?守ったことないじゃないかって、いやそれはさ、ギリギリまでクオリティにこだわることによって、よりいいものを提供したいって作家心があるわけだよ。頭の中ではもう完成してるから。えぇ、名作ですよ。歴史が変わりますよ。全米が泣きます。いや、もう泣いてます。全米が号泣してパシフィックオーシャンの水位上がってます。…え?何ページ書けたかって、そりゃもう500ページは書けてます。あとは削るだけです。そこが、そこがね、一番大変なんだよ。台本ってのはね、増やすのは簡単なのよ。削るのがね、センスの見せ所なんですよ。何を生かして何を殺すか。それが作家の腕の見せ所ってなもんでね。長くすりゃいいってわけではないんですよ、ハッハー。…え?書いたとこまでのあらすじ?いや、あなたそんなあらすじだなんて(笑)読めばわかります。あらすじなんてそんなざっくりしたもので物語の全貌がつかめますか?物語の細やかな機微が伝わりますか?もしかしてあなた、予告編だけ見て作品見た気分になる雑魚ですか?それにだいだい台本が名作だったからって出来上がった芝居が名作になるとは限らないんですわ!台本なんてのは芝居の設計図の域を超えないし、芝居の面白さってのはぶっちゃけ演出家のセンスが99%なわけですよ!“駄作は存在しない!ただそこに非力な演出家がいるだけだ!”それを心に刻んで貰って…は?今から読みに行くって、いやいやいやそんなお忙しい演出家様にわざわざ足を運んでいただくなんて、そんな愚かなことを作家風情の私がするわけないでしょう、是非クーラーの効いた家でルイボスティーでも嗜みながらマインクラフトでもおやりになってゆっくりと、出来うる限りゆっくりとお待ちになって…え?もう家の前にいる?は?いやお前ちょっとふざけんなよ、勝手に人んち来るなって、非常識だろそんな、いやほんとちょっと待てって…。」


 想がカギを閉めようとすると、扉が開く。

 電話を持った杉浦杏奈が入ってくる。


杏奈「で?台本は?」

想「あのさぁ、人んちに入ってくる時にはせめてノックぐらいするってのがさ、社会人の正しい在り方っていうか常識っていうか。」

杏奈「台本は?」

想「…まだ…です。」

杏奈「…何%ぐらい書けた?」

想「言わない。」

杏奈「何故。」

想「言ったら、怒るでしょ?」

杏奈「怒らない。」

想「ほんとぉ?」

杏奈「ほんとほんと。」

想「ほんとにほんとにほんとにほんとぉ?」

杏奈「ほんとにほんとにほんとにほんと。」

想「…ゼロ(可愛く)。」

杏奈「ゼロぉ!?(鬼神)」

想「ほら怒ったぁ!!嘘つき!!ユーライヤーライヤー!!もう信じられないヤー!!」

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