GO!STOP!
~天六奇譚~
GO!STOP! 〜天六奇譚〜
(ゴー!ストップ! てんろくきたん)

【登場人物】
古屋 宗吉(ふるや・そうきち)
古屋 聡子(ふるや・さとこ)
古屋 和代(ふるや・かずよ)
武内 福一(たけうち・ふくいち)
奪衣婆(だつえば)
懸衣翁(けんえおう)
老区隊長
本田少尉(ほんだ しょうい)


一 奪衣婆と懸衣翁

   春の陽射し。川のせせらぎの音。
   美しい花が咲き乱れ、蝶が舞っている。(と思われる)
   そんな中で腕枕で居眠りする懸衣翁。
   時おりムニャムニャ寝言を言ったり、ケツをかいたり。
   傍らに五合徳利が転がっている。
   
   奪衣婆が杖をついてやってくる。
   居眠りしている懸衣翁を呆れたように見下ろす。
   ふと、傍らの五合徳利を見つけ、それを拾い上げて中を確認。
   逆さにふってみたりするが、酒は一滴も出てこない。
   鬼の形相になった奪衣婆、杖で懸衣翁を殴りつけ、

奪衣婆 起きろ、このクソジジイ。
懸衣翁 いてー!何すんだよ、クソババア。
奪衣婆 てめー、これ、一人で飲んじまったのか!
懸衣翁 あ?そりゃあ、そうさ。これは向こう岸で、わしがお釈迦様からいた
 だいたものなんだからな。わし一人で飲んで何が悪い。
奪衣婆 もらってきたのはお前でも、なんでお釈迦様がこれをくださったのか、
 わかってんのか。
懸衣翁 ああ。この前何十万もの亡者がいっぺんにここにきて、そいつらを
 向こう岸へ渡すのにたいへんだったからなあ。それこそ何万回も舟を
 往復させて、へとへとになって。それでお釈迦様がご苦労さんって。
奪衣婆 なら半分はあたしのもんじゃろが。
懸衣翁 なんでだよ。
奪衣婆 何十万もの亡者を向こうへ渡したのは、何もお前一人の苦労じゃねえや。
懸衣翁 わし一人でやったんじゃねえか。一人で舟を何往復もさせて。
奪衣婆 その舟に乗せる前に、六文の渡し賃を取ったのはあたしだろ。それ
 どころか、ほとんどの奴が文無しだったから、着物をひっぺがしたり
 するのが、たいへんだったんだぞ。
懸衣翁 けっ、それだけのことじゃねえか。
奪衣婆 それだけじゃねえやい。いきなりここに吹き飛ばされて、何もわから
 ないでいる亡者を諭してやったり、まだ向こうへ行きたくないとゴネる
 奴を説き伏せたり、どやしつけたりして舟に乗せたのは、全部あたしが
 やったんじゃねえか。
懸衣翁 全部?
奪衣婆 あ、ああ。
懸衣翁 まだあそこに、亡者様が残ってるけどな。
奪衣婆 あとはあいつらだけじゃねえか。
懸衣翁 全部じゃねえじゃねえか。
奪衣婆 しょうがねえだろ。いくら言っても向こうへ行こうとしねえんだから。
懸衣翁 ま、あの三人を舟に乗せて向こう岸へやれば、もう一度お釈迦様が、
(徳利をさして)恵んでくださるかもしんねえけどな。
奪衣婆 えいクソ!じゃあもう一回舟に乗るよう説得してくるから、お前は舟の
   用意して待ってろよ。
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