雪魂アグノイア 第二話
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【雪を踏みながら歩く音】
膝まで埋まるほどの雪の中を歩いている。
この世界に白く降り積もる白い結晶。
別の世界を知る者は『雪に似ている』と言っていた。
僕は本物の雪を知らない。
今日も僕は、誰かに見付かって食われない様に雪へと姿を潜ませる。
いつの間にか僕は、この世界の結晶を雪と呼び始めていた。
時々、雪が降る。
それを不思議に思う事はなかった。
自身の意識が始まったその瞬間から今まで繰り返されてきた。
理屈や法則を考えるまでもなく当然の、この世界の何気ない在り方だった。
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【遠くから争う声が聞こえる】
他の奴らはお互いを食い合おうと争い続けている。
食えば相手の魂を取り込んで強くなる。僕はそれが嫌だ。
強くなれば更に強い相手を食べなければ満足できなくなるし、強くなってしまえば僕自身が他の奴らにとって食いたくなる対象になってしまう。
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【肉と骨を咀嚼する音】
食いたくない。
食われたくもない。
僕は強さに憧れなんて抱かない。
延々と続く虚しい食物連鎖から外れていたいだけ。
気付いた事がある。強い奴らは雪に近付かない。
むしろ開けた場所を好んで行動している様に見える。
その魂を狙って襲い掛かった側が、返り討ちに遭う。
【肉と骨を咀嚼する音】
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僕は雪がない場所には行かない。行きたくもならない。
このままでいい。そう思っていた。
雪に身を潜ませていれば安全。
…そう思い込み過ぎていた。
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【雪の上を走って逃げる足】
誰かに保証された訳でもない、確約を得た訳でもない、たまたま訪れなかっただけの危険。
僕だけが特別に免れていられる理由なんてなかった。
あいつは、いつの間にか僕の側にいた。
【息を切らす呼吸の音】
逃げるしかなかった。
今すぐ食われない為には正しかった。
この先も食われない為には適切ではなかった。
あいつの大きさや強さを把握し切れていない。
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