東京メランコリニスタ【vol.9】
アン・クトー
 東京、渋谷。
 とあるカフェの一席で男女のグループが向かい合って座っている。
 女性二人と同席する男は、どこか真剣な面持ち。

蝉丸:(はいどうも蝉丸(せみまる)です。)
蝉丸:(親愛なる脳内フォロワーのみんな、俺のこと覚えてる?)
蝉丸:(大物ゲーム実況配信者、MeTuber(ミーチューバー)の蝉丸だよ!)
蝉丸:(こんな風にどんだけ大口叩いても許されちゃうんだよね。)
蝉丸:(何たって脳内だから。誰にも迷惑かけてないから!)
蝉丸:(それはさておき、さっそくだがこの状況を見てくれ。)
蝉丸:(どう思う? 当事者である俺が一番理解できてない。)
蝉丸:(ギャルゲーの実況はしたことなかったけど、こんな形ですることになるとはね……。)
蝉丸:(だって見て!? となりにモデル! 向かいにはアイドル!)
蝉丸:(どうなってんの、死ぬの? どんな徳を積めばこんなことになんのよ。)
蝉丸:(思えば色々あったな。俺の取り柄と言ったらゲームくらいでさ……。)

 となりに座る女性が微動だにしない男に話しかける。

天花:蝉丸さん。……蝉丸さん?
蝉丸:ッはァい! はい! 何でしょう!?
天花:大丈夫ですか? 何か全然動かないから。
蝉丸:あッ、ごめんね。 ちょっと何ていうか、現実を直視できなくて。
蝉丸:たぶんまだ心が追いついてないんだと思う。
天花:すみません、付き合わせちゃって。
蝉丸:いやむしろ俺がごめんね!
蝉丸:何かちゃっかり同席させてもらっちゃって!
蝉丸:二人で話したかったんじゃない? ねぇ、リリィちゃん。
リリィ:あっ……いえ、二人だと変に緊張しちゃうかもしれないし……。
リリィ:よかったです、蝉丸さんがいてくれて。
蝉丸:お、お役に立てて恐悦至極……。
天花:確かに緊張するな。
天花:あなたはずっと憧れだったから……リリィさん。
リリィ:そ、そんな!
リリィ:恐れ多いです、天花さんにそんなこと言ってもらえるなんて。
リリィ:私の方こそ、いつも観てます! ドラマも……歌も、全部聴いてます。
天花:嬉しいです。
リリィ:あ、あの、良かったら写真撮らせてもらってもいいですか?
リリィ:アセロラちゃんが天花さんの大ファンで……喜ぶだろうから。
リリィ:あっ、もちろん私もほしくて……。
天花:うん、私がお願いしたいくらい。一緒に撮ろうよ。
リリィ:いっ、いいんですか!?
蝉丸:あ、じゃあ俺撮るよ。席代わろうか、リリィちゃん。
リリィ:あ、ありがとうございます。

 リリィと天花が並ぶ。

蝉丸:すげぇツーショット……。
蝉丸:ハイ、寄って寄って〜。はは、遠いよ二人とも。
天花:蝉丸さんも後で一緒に撮りましょうよ。
リリィ:そうですね! 店員さんにお願いしましょう!
蝉丸:あ、やっぱ俺今日死ぬんだわ。うん、確信した。

 スマホのカメラを構える蝉丸。

蝉丸:撮りま〜す。はい、チーズ。

 シャッター音。

蝉丸:(ここいらでまたもや置いてけぼりの脳内フォロワー諸君に軽くいきさつを説明しておこう。)
蝉丸:(時はさかのぼり、あの地獄の伊丹(いたみ)サミットの後のこと……。)
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