東京メランコリニスタ【vol.2】
耽美ジャンキー

 スマホでとある配信動画を無表情に眺める中年男性。
 次第に苛立ちが足の揺すりに表れていく。

犀川:(「好きなことして生きていく」?)
犀川:(ああ、誰だってそうしたいと思ってるよ。俺だってそうだ。)
犀川:(でもな、実際に叶えられる奴なんてほんの一握りだろ。)
犀川:(大抵は、妥協を重ねた末に夢は捨てる。)
犀川:(変哲のない歯車のひとつとして働くのがオチだよな。)
犀川:(わかってるって。俺も今年で35だし。)
犀川:(さっさと現実見て身の丈に合った仕事を探せ……ってな。)

 最高潮に達する足の揺すり。
 スマホを叩きつける男。

犀川:(人が本当に夢を諦める瞬間ってどんな時だと思う?)
犀川:(お金がない、才能がない、もう遅い……いいや、違う。)
犀川:(誰からも振り向いてもらえなくなった時さ。)
犀川:(いいなぁ……いいなぁ。)
犀川:(どんな気分なんだ? そこから見える景色は。)
犀川:(なぁ、俺にも教えてくれよ。)

 虚ろな目を上げる男。

 東京、某所。
 人気のない路地裏でライブ配信を始める蜂須賀。
 画面奥の行き止まりには、スプレー缶で壁に絵を描く男の姿が映る。
 笑顔で喋り始める蜂須賀。

蜂須賀:はい、どーもォ、はっちゃんだよ。
蜂須賀:元気してっかい、フォロワー諸君。
蜂須賀:今回の「東京メランコリニスタ」、いつもとは一味違ったと思うけど、気付いた?
蜂須賀:まぁ気付くわな、うん。
蜂須賀:そ、オープニング動画をね、リニューアルしたんですよ。
蜂須賀:めっちゃエモいでしょ。
蜂須賀:はっちゃん頑張ったんだわ。そ、俺が作りました。なかなかやるでしょ?
蜂須賀:動画の作り方知りてぇって人は、後で概要欄にリンク張っとくから、そっち見てね。
蜂須賀:それはさておき、主題歌よ!
蜂須賀:ついに「東メラ」にも主題歌がついたわけ!
蜂須賀:俺もう、何回リピしたかわからん。
蜂須賀:歌ってくれたのは、もちろんこの方!
蜂須賀:皆大好き、リリィちゃんです!
蜂須賀:はい、どうぞ!

 蜂須賀の促しに応え、そろそろと現れるリリィ。

リリィ:えっと、こんにちは……リリィです。
リリィ:あの、頑張って歌わせてもらいました。
リリィ:作詞と作曲は私の知人でネットで売出中の……。
蜂須賀:うわっ、ちょい待ってコメントの数ハンパねぇなオイ。
蜂須賀:俺が言うのも何だけどさ、コンプラは一応守れよ!
蜂須賀:あっ、セクハラじみた発言はチャンネルの品位を落とすんでやめてもらっていいスか?
蜂須賀:おぉっ、歌めっちゃ良かったって! リリィちゃん。
リリィ:あ、ありがとうございます。嬉しいです!
蜂須賀:そのうちリリィちゃんのライブ回とか良いかもしんないね〜。
蜂須賀:ぜひともお楽しみにィ。
リリィ:が、頑張ります! よろしくお願いします!

 深々と頭を下げるリリィ。

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