バビロンの魔王
真神:(拝啓、おばあちゃん。お元気ですか?)
真神:(腰の調子が良くないって言ってたけど、調子はどうかな。)
真神:(こっちは相変わらずです。仕事は忙しいけど、何とか頑張ってるよ。)
真神:(最近、手紙を書きながら実家を思い出すことが多くなりました。)
真神:(ホームシックってやつかな。懐郷病(かいきょうびょう)って言えばわかる?)
真神:(これ、前にも書いた気がするね。)
真神:(年末には帰れると思うから、正月は久しぶりに初詣に行こう。)
真神:(季節の変わり目は風邪引きやすいから、体調には十分気をつけてください。)
真神:(逸人(いつひと)より。)
賭博都市「バビロン」。
都内最大のカジノ「バベル」。
卓につき、うつむき加減で額に手を当てる男の姿。
正面に構えるは上機嫌に笑みを浮かべている。
マルドゥック:清々しいくらいの負けっぷりだな、ニイさん。
真神:……ですかね……。
マルドゥック:だが気に病むことはねぇ!
マルドゥック:人生に挫折はつきものだ。
マルドゥック:世の成功者は皆、敗北の味を知ってる。
マルドゥック:俺が言うんだ、間違いねぇ。
真神:はぁ……。
マルドゥック:あんたは今、大いなる夢への階段を一歩上り始めたんだ。
マルドゥック:そうだよなぁ!?
ギャラリーが盛り上がる。
場の空気に反して、負け越した男の表情は沈んでいく。
マルドゥック:顔上げなって、勝負はこれからさ。
マルドゥック:最後に取り返しゃあいいじゃねぇか。
真神:でももう賭け金が。
マルドゥック:素寒貧(すかんぴん)か?
マルドゥック:心配すんな、まだまだ遊べるぜ。
マルドゥック:ルーザーにも等しく手を差し伸べる。それが我が「バベル」のシステムさ。
真神:すみません、もう勘弁してくれませんか。
真神:これ以上は本当に……。
マルドゥック:おいおいおいおい、よせよせ、口を閉じろ。
神妙に人差し指が立てられる。
マルドゥック:弱音とともに運気も逃げていく。
マルドゥック:賭場の常識だぜ?
マルドゥック:盛り下げてくれんなよ。天下のインヴェイダー社の社員だろ?
真神:そうです、サー・マルドゥック。
真神:私はビジネスの話でうかがいました。
真神:ギャンブルをしにきたわけじゃない。
マルドゥック:あんたはそうかもしれんがな、俺はこれが仕事でな。
マルドゥック:熱狂を生み出し、提供する。
マルドゥック:ひとつ浮かされてみようぜ。
マルドゥック:日本(ジャパン)じゃ味わえんだろ、こんな熱はよォ。
額に手を当てる真神。
真神:……話が通じない……。
マルドゥック:頭痛がひどいようだが、話を戻すぞ。
マルドゥック:ゲームを続けたいが文無しっつーことだったな、ミスター……。
真神:真神(まがみ)です。
マルドゥック:ミスター・マガミ。
マルドゥック:そんなあんたには選択肢がある。
マルドゥック:肺・肝・腎・角膜、とあるが、どれにする?
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