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犬では無理がある　(55分)

2023年版

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　　　病院の中庭にテーブルと椅子が置かれている。
　　　女、母親に電話を掛ける。

女　もしもし？
母　（もしもし？　何、どうしたの？）
女　どうもしないよ。いい天気だなと思って。
母　（そうね、洗濯物が乾いていいよ）
女　あー、洗濯。私もして来ればよかった。
母　（今日は？　仕事でしょ？）
女　今日、は…、仕事はないよ。
母　（あー、そう）
女　お母さん何してた？
母　（今？　ご飯食べながらヒルナンデス見てた）
女　ヒルナンデスってまだやってんだ？　あれの曲って、確か…。差し替えになったの？
母　（もう流れてないね。マッキーまた捕まっちゃったからね）
女　え、じゃあ今は、何ナンデスなの？
母　（知らないよ）
女　見ててなんで分かんないの？
母　（マッキーは全然関係ない曲だよ。…どうしたの？）
女　ん？
母　（どうもしない訳ないでしょ。電話してくる時は大抵そうなんだから）
女　声が聞きたくなる時くらいあるでしょ？
母　（ホントにそれだけ？）
女　それだけ。娘の声が聞けて嬉しいでしょ？
母　（まぁ、ねぇ。元気にやってんの？）
女　うん、大丈夫。それなりに元気。
母　（彼氏とはどうなの、最近？）
女　え、
母　（上手くいってないの？）
女　別に、普通だよ。
母　（分かりやすいんだよ。あんたは。上手くいってるの？）
女　…んー、まぁ、大人ですから。お互い。
母　（ケンカ？）
女　いいじゃん、もう。
母　（次いつ帰ってくるの？）
女　今ちょっと分かんない。
母　（分かったら連絡しなよ？）
女　うん、分かったら連絡する。じゃあ、そろそろ。
母　（はいよ）
女　じゃあね。

　　　女、終話。
　　　空を見上げて、遠くのほうへ意識を向ける。
　　　溜め息。

　　　男、入場。
　　　女の隣に座る。

女　さっきね、お母さんと電話してた。天気良いね、って。
男　うん。
女　天気良いのって、不安になっちゃうな。
男　不安？
女　…空が、すごい遠くまで透き通ってて、広すぎて、自分がちっぽけに感じて。もし
　　重力がなくなって吸い込まれたら。落ちたら？　どっちかな。もう何にも出来なくな
　　って、足掻いてもどうしようもなくて、今まで私がやってきた事とか、感じてきた事
　　とか、全部無意味になるんだろうなって。
男　…。
女　取り留めないね。分かんないよね。さっき、あ、電話よりもっと前ね。子どもがさ、
　　通り過ぎたの。お母さんと手を繋いでて。いくつくらいだろう。３歳とか？　めっち

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