つまらなくてたのしいはなし。
つまらなくてたのしいはなし。
キャスト
笠野…作家
木外…劇団「巨大な濠」の主宰
笠野の家のリビング。笠野に執筆依頼をするために木外がアポを取って笠野の家に来た。
笠野と木外が下手から入ってくる。
笠野 すみません、何もない家でして。なんか、寂しい感じですよね
木外 (ハキハキした大きな声で)いえいえ!実に作家先生らしい家といいますか!すばらしい部屋ですね
笠野 そ、そうですかね?
木外 はい!なんかこう…逆に?作家としての感受性に余計な刺激を与えないために?(ここから早口)
何もない空間をつくり上げ、最低限度の生活を送ることで己と向き合う時間を増やしていき、己とは何か、アイデンティティを構築するためには何が必要か自分に問いかける時間を設けている、(早口終わり)そんな笠野先生のすべてが詰まった部屋という感じがひしひしと伝わってきます!
笠野 …(気圧されて)はい。あ、とりあえず机といすはあるんで、あの…どうぞ
笠野に促される形で木外が席につく
笠野 なにか飲み物もってきますね
木外 いいえ!おかまいなく!これでも鍛えておりますから!数時間何も飲まなくても平気です!
笠野 は、はあ…。わかりました…
笠野も席につく
笠野 それで…私にお話しとは?
木外 (ハキハキとした大きな声で)はい!この度はアポイントメントを受けてくださり、誠にありがとうございます!私劇団『巨大な濠』の主催をしております、木外と申します。あ、『巨大な濠』の
表記はBIGの巨大にオーストラリアの漢字表記の濠で『巨大な濠』と…
笠野 あ、あの…初めましてで申し訳ないんですが、先ほどから声が少し大きいのでもう少しボリュームを下げていただけると…
木外 (ハキハキとした大きな声で)あ!すみません、自分劇団の者ですから。日々発声練習に勤しんでおりまして!(声を少しだけ小さくして)このくらいでよろしいでしょうか?
笠野 それでも少し大きいような…
木外 そうですか?でもこれ以上小さくすると…(客席の方を見て)声が聞こえなくなるんじゃないかと思いまして
笠野 (机の幅を指して)この距離で聞こえないということはないと思うんですが…
木外 あ、笠野さんには聞こえるんですけどね。ちょっとこっちに…(照明卓へ向かって)照明卓、聞
こえますかー?
照明がちかちかと光る。
木外 あ、オッケーでーす。ありがとうございまーす
笠野 そっちは壁ですけど
木外 まあじゃあ、気にしないでおくとしましょう。本題に入らせていただいても?
笠野 あ…はい。(釈然としないながらも)大丈夫です。
木外 今回、笠野さんにご連絡をしたのは、メールにも書かせていただいたとおり、笠野さんに脚本の執筆を依頼したく思いましてね
笠野 はい、確かにそのような内容がメールにか書かれていましたが…脚本、ですか
木外 はい、わが劇団はありがたいことに、この度外部ホールで上演をすることが決定しまして。せっかくなので新作を上演したいのです。それでその新作の脚本を…
笠野 私に書いてほしい、と
木外 はい!笠野さん、いえ、笠野先生の作品を読ませていただきまして。うちの劇団でぜひ笠野先生に脚本を書いてほしいという声があがったんですよ
笠野 いやまあ、そんな小説家とか名乗れるほどのものではないんですけど…まだまだかけだしですし。でも…作家として嬉しい限りですね。ちなみにどの作品を読んだんですか?
木外 「君に聞きたいこと。」とか「秋の合戦」ですね
笠野 あー、それですか!いやあ私もその作品けっこう自信作なんですよ。いや〜なんか照れちゃうな
木外 笠野先生の作品って、こう…読者を楽しませるぞ!っていうのが伝わってくると言いますか。観客の方にもこの読後感を味わってほしくて。
笠野 ありがとうございます。楽しめる作品を心掛けているんで、それが伝わってるのは嬉しいですね
木外 それで…どうでしょう?書いていただけますか?
笠野 ちょっと待ってくださいね
笠野、スケジュール帳を持ってくる
笠野 ……あー…、すみません。今月結構スケジュールが詰まってまして…ちょっと厳しいですね…
木外 そ、そんな…そこをなんとか!
笠野 うーん……正直厳しいですねえ
木外 (少し声を落として)あの、依頼費とは別にこういうものも用意しているんですが…
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