入間川外伝
『入間川外伝』


【登場人物】

彩花       女性
文十郎       侍
イルマヌシ様 川


彩花が携帯で話しながら下手から登場する。

彩花   うん! 着いたよ。今どこ? え? うち?  …え? 別れるって、どうして? 無理? 何が? 私全然無理じゃないよ? 。そういうとこってどういうとこ? え? わかんない。思い当たること…(胸に手を当てる) 私がお侍好きだから? …ごめん。私何かしたんだね。いつもそうなんだ。気付かないうちに周りの人傷つけちゃうみたい。 …ひょっとして、あの時のこと、怒ってる? あっくんが寝てる間にちょんまげにしたこと。ごめん、もうしないから! 頭皮剃らないからぁ! …でも起きないあっくんもあっくんだよ… あ、あとスパイダーマンのDVDの中身を全部暴れん坊将軍に入れ替えてたことも謝るから。 …でもさ、あっくんも無責任だよ。だって東海道五十三次徒歩の旅、まだ途中だよ? まだ品川だよ。二次目だよ? あと五十二次残ってるよ? 武士に二言はないんじゃ あ、切れた。

落ち込む。厳かにイルマヌシ様が登場する。後方の壇上に登り、立って見守る。彩花は顔を上げて呟く。

彩花   あーあ。どこかに、イケメンで、優しくて、お侍で、強くて、筋の通った、お侍いないかなー。江戸時代じゃあるまいし、令和のこの時代にそんな人、いないよね。

イルマヌシ様はうなずき、神妙に鈴を振る。上手から文十郎が登場する。音楽ターミネーター

文十郎   時空の裂け目。バリバリバリ! ぬぁああ。川の中からビシャ!

文十郎はターミネーターのようにひざまずく。
彩花は恐る恐る近寄る。

彩花   あ、あの。
文十郎   お主!
彩花   はい!
文十郎   拙者を召喚したのはお主でござるか?
彩花   あ、そうかも。はい。私です。
文十郎   名をなんと申す。
彩花   私? 彩花です。
文十郎   もしや、ここは入間川か。
彩花   あ、そうだよ。
文十郎   やはりそうか…
彩花   ねえ、あのもしかして。
文十郎   これは大変でござる。イルマヌシ様のお戯れでござる。
彩花   イルマヌシ?
文十郎   この川には神様が住んでおられる。ネギハヤミイルマヌシという。
彩花   どこかで聞いたことあるわね。
文十郎   ニギハヤミコハクヌシと違って大変なひねくれもので、願い事の逆を叶えよる。あと、気まぐれじゃ。お戯れが始まると、逆さ言葉で話さなければならぬ。それがこの土地の昔ながらの習わしじゃ。入間言葉とも言う。
彩花   じゃ、あなたがここにきたのは。
文十郎   お主、拙者がここに来る前に何か申したであろう?
彩花   「江戸時代じゃあるまいし、お侍みたいな人いないよね」っていったの。は!
文十郎   それじゃ。つまり、「お侍がみたいな人いないよね」と言ったから、「お侍みたいなのがいる」みたいになったのじゃ。
彩花   あなた本物のお侍さんなの?
文十郎   まさしく。
彩花   住所氏名年齢生年月日。
文十郎   武蔵国川越藩藩士奥富文十郎。当年取って三十でござる。元禄二年睦月の七日生まれ。
彩花   干支、星座、血液型
文十郎   巳年の山羊座、A型じゃ。
彩花   うそー。すごーい。え? イルマヌシ様って、言ったことの逆を叶えるっていうことだよね。じゃあ、雨が降るって言ったら雨が止むの?
文十郎   イルマヌシ様の耳に届けばそうなるであろう。
彩花   …
文十郎   なぜ、彩花殿は悪い顔をしておるのだろう。
彩花   あなたは、私のことが嫌いになる!

イルマヌシ様「キター」の表情。鈴の音。間

文十郎   …なんじゃ。
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