贋作 雨月物語
『贋作 雨月物語 〜吉備津の釜、浅茅の宿編〜』
【登場人物】
磯良(女) 香央磯良(かさだいそら)。21歳。吉備津神社の神主である香央家の長女。
正太郎(男) 井沢正太郎(いざわしょうたろう)。24歳。農家の一人息子。
勝四郎(男) 真間勝四郎(ままかつしろう)。24歳。商家の長男。
宮木(女) 真間宮木(ままみやき)。22歳。勝四郎の妻。
秋成(男) 上田秋成(うえだあきなり)。27歳。雨月物語作者。
時は江戸時代後期(1765年)。場所は吉備(岡山)。
舞台は神社の裏の質素な屋敷が中心となる。
0 序
雨の音。スライド『序』
薄暗い照明。正太郎と秋成が座っている。雷の音。
秋成 ひい!
正太郎 大丈夫。ただの雷だよ。
秋成 い、磯良よ。鎮まれ… 鎮まってくれ。
正太郎 秋成さん、僕は磯良が怒っているとはどうしても思えないんだ。
秋成 何を言うておる! 怨霊とは死後の執念。生前とは異なる姿を見せると古今東西、あらゆる文献がそう示しておるわ!
正太郎 …
秋成 絶対に外に出てはならんぞ。迷える魂の行方が定まるまでは四十九日。今宵を乗り切れば成仏してくれるだろう。
正太郎 僕は磯良に会いたい。磯良になら殺されても構わない。
秋成 馬鹿を言うな! 諦めるんじゃない。釜のお告げの所為だとは思いたくないが、なんとも恐ろしい…
正太郎 …わかってる。日の出までは外に出ないよ。
秋成 …俺は水を汲んでくる。くれぐれも、な。
正太郎 うん…
秋成は下手に退場する。正太郎はうとうととする。雨の音が小さくなり、止む。音楽。同時に上手から光が差し始める。
正太郎 ああ、もう夜明けか。秋成さん、夜が明けたよ。
正太郎は上手に姿を消す。上手からの光が徐々に消えていく。再び薄暗い照明へ。秋成が戻ってくる。
秋成 正太郎? 正太郎! どこじゃ! 正太郎!
秋成は部屋中を探す。一旦下手に退場するがすぐに入場。上手の戸口が開いていることに気づく。座り込む。
秋成 おらん… まだ真っ暗じゃないか。絶対に外に出るなと言うたのに… これで磯良に続いて正太郎まで。宮木ちゃんも病で苦しんどるというのに…
暗転。背景にスライド。タイトル。
1 吉備津の釜
明転。秋成、勝四郎、宮木が中央で話し合っている。
秋成 いいか、せーの、でいくぞ。
秋成 (三人同時に)せーの、
宮木 (三人同時に)せーの、
勝四郎 (三人同時に)いっせーの。
秋成 待て待て。せーの? いっせーの?
勝四郎 ああ、すまん。せーの、で。
秋成 よし、じゃあいくぞ。
秋成 (三人同時に)せーの、
勝四郎 (三人同時に)せーの、
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