コード:マトリョシカ
クレア:『ケース・「ミステリ・オブ・グラウンドゼロ」最重要被疑者「コード:マトリョシカ」に関する報告書。』
    『担当者・特務捜査官クレア=タウンゼント。』
    『以下、ケース名は「MOG」と省略して記載する。』
    『事件における当事者の一人であり、断片的な証言を元に身柄を確保した「コード:マトリョシカ」。』
    『対話を重ねるうち、いくつかの事件の核心に迫る証言を得ることができた。』
    『関連事項のみ要約する。』
         
 取調室。捜査官のクレアと向かい合う男の姿。

マトリョシカ:今日は二人きりですか? 嬉しいなぁ。
クレア:ええ。できる限り、あなたの要望に応えたいと思って。
マトリョシカ:だったら、こんな殺風景なところじゃなくて、もっと眺めが良い場所でお話したいですね。
       そうだな、海が良い。
       これでも僕、サーフィンが得意でして。
クレア:あなたが協力してくれれば叶えてあげるわ。
マトリョシカ:本当かなぁ。いつになることやら。

 腕を組み、男を見つめるクレア。

クレア:それで……いいかしら、「サイモン」。
    この間の話の続きだけど。
マトリョシカ:その前に、これ。

 「サイモン」と呼ばれた男が、自らに掛けられた手錠を掲げる。

マトリョシカ:何とかなりませんか?
       見た目より重くて疲れるんですよ。
       あとかゆい。アレルギーかもしれないなぁ。
クレア:ごめんなさい。掛け合ってみたけど駄目だったの。
    それは外せないわ。我慢して。
マトリョシカ:本当かなぁ。まぁ、いいですよ。
       それで、何の話でしたかね。
クレア:事件発生時のあなたの行動。
    もう一度整理して話してもらえないかしら。
    
 ため息を落とす「サイモン」。
 困ったような笑顔でクレアを見る。

マトリョシカ:……何度も言ってるじゃないですか、クレア捜査官殿。
       それについては、話せることは全て話しました。
クレア:ええ、あなたからはね。「サイモン」。
マトリョシカ:……。
クレア:呼んできてもらえる?
マトリョシカ:やれやれ、物好きですね、あなたも。
クレア:熱心と言ってもらえないかしら。
マトリョシカ:わかりました。気が済むまでどうぞ。
       その代わり、次はもっと楽しいお話をしましょう。
       プライベートでね。
クレア:それはあなた次第ね。

 肩をすくめる「サイモン」。静かに目を閉じる。
 やがて開いた目には、先程とは異なる光が宿っている。

マトリョシカ:……またお前か、小娘。
クレア:ハイ、ベイブ。少しいいかしら。
マトリョシカ:「少し」で終わった試しがないだろうが……全く。

クレア:『「コード:マトリョシカ」は多重人格者である。』
    『しかし、一般的に知られている解離性障害とは異なり、人格の出現パターンに特殊性を有している。』
    『その名の通り、人格が人格を覆うように存在しており、現れる順序が明確に決まっている。』
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