ぶし
 下町の小さな道場。
 二人の男が向かい合い、竹刀で打ち合っている。
 快活な声が道場内にこだまする。

武道:ヤァッ!
直政:ハッ!
武道:まだまだッ!
直政:もう一本!

 竹刀がぶつかり合う音が響く。
 お互いが笑顔で視線を交わす。
 爽やかな汗が流れる。

 ――数分後。
 茶の間で腰を下ろしている二人の姿。

武道:安心したぞ、直(ナオ)!
   少しも腕は錆びておらんようだな。
直政:お前もな、武(タケ)。
   あいも変わらず激烈な打ち込みよ。
   見ろ、今だに手がしびれている。
武道:打ち込みはもはや日課だからな。
   剣を握らんと落ち着かんほどだよ。
直政:ははは……まさか一日中やっているんじゃあるまいな。
武道:馬鹿言え。夕飯時には切り上げておるわ。
直政:十分すぎるよ。この剣道馬鹿め。

 とても爽やかな空気が流れている。

直政:(俺の名は直政(ナオマサ)。)
   (この武道(タケミチ)とは竹馬の友だ。)
   (下町で随一の剣客であったお父上の影響か、物心ついた頃から剣道一筋。)
   (「親父を超える天下一の剣豪となる!」……というのが奴の口癖である。)
   (今もなお、その青臭い夢は捨てておらんようだ。)
   (全く、我らも良い歳だというのに……。)
   (まぁ、そんなこいつに付き合っている俺も、物好きということかな。)
   
 茶を口にする武道。
 湯呑を置き、直政を見る。

武道:……時に直(ナオ)、俺はひとつ心に決めたことがある。
直政:何だ?
武道:今年こそ、道場をな……開こうと思うんだ。
直政:ほう! 良いじゃないか。
   ずっと言っていたものなぁ。
武道:ああ。知人の地主に大の剣道好きがいてな。
   その方の計らいで、使われておらん道場を任せてもらえることになった。
直政:それは重畳(ちょうじょう)。夢への一歩目だな。
武道:もちろんお前も手伝ってくれるよな、直(ナオ)!

 直政の顔が引きつる。

直政:……ん、んん。まぁ、可能な限りはな……。
武道:オイ何だその気のない返事は!
   ともに剣の道を高め合っていこうと誓ったではないか!
   
 屈託のない眼差しで直政を見る武道。
 どこか気まずい様子で視線を逸らす直政。

直政:なぁ、武(タケ)。
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