インフェルノの炎
殺し屋シリーズ2部:11話
「シアター」・展望デッキ。
眠らぬ街のネオンを眺めるアッシュの背に一人の男が語りかける。
ブージャム:「何を生き急いでいる」……ときましたか。
アッシュ:……。
ブージャム:なかなか本質に迫る問いですね。
アッシュ:そうですか?
聞いたところで理解できないんじゃ不毛でしょ。
ブージャム:なぜそう思います?
アッシュ:単純なことですよ。他人同士だからです。
真に他人を理解できる人なんて存在しない。
「信頼」「信用」……全て当人の無責任から生まれます。
ビジネス上は不可欠ですが、個人間では極めて無益でしょう。
ブージャム:なるほど。
アッシュ:あなただって、僕に噛みつかれて感じたんじゃないですか?
ブージャム:おや、噛みつかれた覚えはありませんがね。
アッシュ:ははッ……ムカつくなぁ。
手すりに頬杖をつき、遠くを見るアッシュ。
アッシュ:ちょっと愚痴を吐いてもいいですか?
ブージャム:ええ、どうぞ。
アッシュ:やっぱり僕、人の上に立つのは向かないみたいです。
ブージャム:向き不向きはありますからね。
致し方のないことでしょうな。
アッシュ:いや、そういうことではなくてですね。
ブージャム:?
アッシュ:「権力者」というものに対して抵抗があるみたいです。
自分が思っているよりずっとね。
ブージャム:ほう。
アッシュ:大小関わらず、権力を振りかざす連中にどうしてもイラついちゃうんです。
ブージャム:当然の感情かもしれませんね。
暴君の凋落(ちょうらく)は歴史を見れば明らかです。
アッシュ:はは……当然ですか?
ブージャム:私はそう思いますが。
アッシュ:僕が初めて殺した暴君が父親だったとしても?
つかの間の沈黙
ブージャム:……ええ、近しい存在となると影響も大きい。
アッシュ:ふっ、父の言葉は違いますねぇ。
男がアッシュの横に並び、同じ景色を見る。
ブージャム:初めてですね。
アッシュ:はい?
ブージャム:あなたが自分のことを語ったのは。
アッシュ:問題ないでしょう。
アッシュ:あなたはもういないのだから。
ブージャム:……そうですな。
アッシュ:「死人に口無し」ってね。
うつむき、控えめに笑うアッシュ。
ブージャム:どうするつもりですか?
アッシュ:何がです?
ブージャム:この勝負、あなたが勝てば晴れて嫌悪していた権力者の仲間入りですよ。
アッシュ:はは、ヤな質問だなぁ。
ブージャム:かと言って、今さら後戻りはできますまい。
あなたが仕掛けたゲームの賭け金はそれ程に莫大なものだ。
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