メガロポリスの悪霊
殺し屋シリーズ2部:7話
クルム:(多分、俺は殺し屋には向いてねぇ。)
クルム:(たまたま銃が仕事道具で、たまたま狙撃の才能が少ぉしあっただけだ。)
クルム:(兵役を経て、裏の世界に片足を突っ込んだ。)
クルム:(かろうじてまだ戻れたんだろうが、そこで銀(イン)の奴と出会っちまったのが運の尽きだ。)
クルム:(「君は絶対に稼げる」とさ。)
クルム:(そうだなぁ、多少は良い思いはできたよ。)
クルム:(酒と女に困ることはなかった。)
クルム:(だがな、やっぱ俺には向かねぇ。)
クルム:(スコープを覗くとあり得ねぇものが映り込む。)
クルム:(そいつは血まみれの顔で俺の方をじっと見てくるんだ。)
クルム:(プローンで狙ってる時、後ろに立ってることもある。)
クルム:(要するに……ビビリなんだよ。)
クルム:(そんなザマで「魔弾の射手」だぁ?)
クルム:(似合わねぇって。誰が言い出したのか知らねぇが金輪際呼ばないでくれ。)
クルム:(まぁでも……後戻りができねぇところまで来ちまったのも事実なんだよな。)

 ネオンの照らす眠らぬ街。
 その中央にそびえる高層ビルのワンフロア。

 廊下で血を流し、床に転がる屈強な黒服たち。
 巨大なナイフについた血を振り落とし、女性が先へと歩いていく。
 やがて目の前に現れた男に目を向ける。

リグレット:……あら? あなたは……。
クルム:よォ、元気そうじゃねぇか。
リグレット:そちらも壮健のご様子で何よりです、ミスター。
クルム:ったく、何人やりやがったんだ?
クルム:こいつらだってその道のプロのはずなんだがなぁ。
クルム:絶好調じゃねぇか、怪物(モンスター)め。
リグレット:哀れな贋作(がんさく)の群れに私の歩みを止めることなどかないません。
クルム:そうかい。で、何が目的なんだ?
クルム:ここがどこだかわかっててカチこんでんのか?
リグレット:目的、ですか。
リグレット:私の望みは以前にお会いした時と変わりません。

 冷たい笑みを浮かべるリグレット。

リグレット:あなたの首を主のもとへ奉(たてまつ)るのみです。
クルム:……話が通じねぇんだよな。
クルム:聞いた俺が馬鹿だった。

拳銃を構えるクルム。

リグレット:ふふ、よく狙いなさい。
リグレット:私の心臓はここです。
リグレット:黒い羊の牙をお見せくださいませ。

 引き金に指をかけるクルム。

クルム:(嬢ちゃんが羨ましいぜ。)
クルム:(あれだけ迷いなく仕事ができりゃあ、ウダウダ考える必要もねぇだろう。)
クルム:(なぁ、銀(イン)よォ。)
クルム:(俺には殺し屋も子守りも向いてねぇ。)
クルム:(見てみろ、こんな時だってのにまた俺を見てきやがる。)
クルム:(タチの悪ィ、「悪霊」が。)

 銃声が響く。

 高層ビルの上層部に位置するワンフロア。
 一室で歓談する声が聞こえてくる。
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