エクスマキナの希望
殺し屋シリーズ2部:1話
 眠ることを知らない大都市。夜の顔へと変貌した繁華街は色とりどりのネオンが踊る。
 ひときわ煌々と輝くナイトクラブには「デウス」の文字。

 店内。豪勢なカーペットの敷かれた廊下を歩いていく一人の男。
 顔には首筋にかけてまでひどい火傷の跡がうかがえる。
 男はドアの前で立ち止まりノックする。

アッシュ:ボス……ボス、いらっしゃいますか。

 再びノック音。ドアの向こうからはけたたましい声が聞こえる。
 呼びかけに対する反応はない。

アッシュ:入りますよ。

 ドアを開く。
 視線の先には複数の女に囲まれた男の姿が映る。
 革張りのソファに腰掛ける男が入室者に気づき、顔を向ける。

ブルーノ:あ? ……おォ、アッシュじゃねぇか。何か用か?
アッシュ:お楽しみのところ申し訳ありません。客ですよ、ボス。
ブルーノ:客? んなもんマネージャーに任せとけばいいだろうが。
アッシュ:VIPです。
ブルーノ:誰だ?
アッシュ:美女が二人。

 思案を巡らす「ボス」と呼ばれた男。
 ややあって合点がいく。

ブルーノ:……あァ、すっかり忘れてた。今夜だったか。
ブルーノ:わかった、すぐ行くからよ。適当にもてなしとけ。
アッシュ:承知しました。
ブルーノ:お前も同席しろ。
アッシュ:いいんですか?
ブルーノ:ああ。相手は時代遅れの猟犬だぜ? 噛みつかれちゃかなわんからな。
アッシュ:へぇ……見かけによりませんねぇ。
ブルーノ:猟犬は猟犬らしく相応しい飼い主が必要だ。そう思うだろ?
アッシュ:ごもっともです。
ブルーノ:とっくに終わったんだよ。「殺し屋」がのさばる時代は。

 仕立てられたジャケットを羽織り、部屋を出ていく「ボス」。
 アッシュと呼ばれた男が薄く笑みを浮かべ、顔の火傷に触れる。

アッシュ:……そうですね。いつだって時代は移ろいゆくものです。

 「ボス」に追随するように部屋を後にする。

 ――VIPルーム。
 ひときわ豪華な装飾の施されたテーブルに向かい合う形で腰掛ける二人の女性。
 その一人が楽しそうに指を立てる。

銀:ねぇ見た? さっき案内してくれた人の顔。
ホープ:……。
銀:良い男だったねぇ。思わず眼鏡取り出しちゃったよ。

 向かい合う女性は無表情に頬杖をついている。

ホープ:……そっち?
銀:え、何? そっちって。
ホープ:火傷のことかと思った。
銀:ああ、確かにひどい火傷のあとだったね。でも無問題(モウマンタイ)。
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