分数のわり算
「分数のわり算」
あらすじ
11月中旬の金曜日の放課後。東北地方の盆地の小都市。小学校の教室で、6年生の少女ふたりが残されて分数のわり算の勉強をしている。ひとりは「豊田らら」。もうひとりが「三沢みち」。豊田ららは両親が死亡し、生まれた場所を離れ、おばに育てられている。三沢みちは今時の子供には珍しく方言でしゃべる。ふたりは成績が悪く、担任の「谷口やすえ」に居残りを命じられたのだ。ふたりは文句をいいながら勉強を続ける。
谷口やすえは突然の訪問者と面談するために、ららとみちに勉強するように言い教室を離れる。ふたりの谷口に対する文句はさらに激しくなる。そこに谷口を探しにきた校長の「安藤京子」が訪れて、ふたりを励まして去る。
面談を終えた谷口やすえが再び教室に来る。豊田ららは自分が頭が悪いのは4月1日生まれだからだと言う。4月1日は学年で一番最後に生まれた日だからだ。それを聞いた三沢みちは、自分は8月生まれなのに分数のわり算がわからないのは本当にバカだからだと言う。それに対し、谷口やすえは
「バカなんかいないわよ。本当にあなたってバカね。」
と言い、それを聞いたみちとららは、谷口やすえが「バカ」と言ったと責め、「教育委員会に訴えてやる」と大騒ぎになる。
夜、谷口やすえが教室で一人で仕事をしている。そこに校長の安藤が訪れ、谷口の苦労をねぎらい、励ます。
週明けの月曜日の放課後。教室には豊田ららと三沢みち。ららはスマホを見ていて、みちはそれをうらやましがっている。外を見ると三沢真理子が学校に来るのが見える。担任の谷口と教室まで来るようだ。ふたりは教室の片隅に隠れる。
教室で谷口は真理子と面談する。真理子は谷口がみちにバカだと言ったと抗議する。谷口は事実を正確に伝え弁解するが、真理子は聞く耳をもたない。しだいに谷口もいらだってくる。そこに安藤が登場し仲裁しようとするが、真理子は決して学校側に言うことを聞こうとしない。対立が激化したとき、みちがその場をおさめようと飛び出すが、事態はさらに混乱するだけである。ららが登場し、大人たちを批判し、みちをつれて出ていく。
谷口は豊田ららの両親が津波にさらわれた話をして、苦しい子供を助けられない大人たちを批判する。安藤と真理子は反省するが、やはり自分勝手な対立を続ける。
次の日の火曜日の放課後。教室には豊田ららと三沢みち。みちはなぜ自分が方言を使うのかを話し、実は方言で話すのがいやだと言う。ららはおばさんが結婚するために、東京に住む別の親戚に預けられると話す。みちはららに同情し、悲しむ。みちはららに会うために標準語を話すと言う。そしてみちはららと永遠に友達でいると誓う。
登場人物
豊田らら(12) 小学6年生 三沢みちの友達
三沢みち(12) 小学6年生 豊田ららの友達
三沢真理子(45) 三沢みちの母
谷口やすえ(30) みちのクラス担任
安藤恭子(54) 校長
1場
11月中旬の金曜日。午後3時。
東北地方の盆地の小都市。
小学校の教室。
その教室は2階にある。
舞台の奥が廊下。
廊下の向こうには外が見え、山が見える。
舞台の客席側に窓があり外は校庭という設定。実際には舞台上には窓はなく、パントマイムで窓の存在が示される。
教室には大きな子供っぽい、手書きの「きずな」の文字が掲示されている。
〇1‐1
「三沢みち」と「豊田らら」が算数の勉強をしている。
三沢みちは小学校6年生。成績が悪い。しゃべるのは常に方言。
豊田ららは標準語でしゃべる。やはり成績が悪い。
豊田ららは勉強に飽きて、立ち上がり窓の外を見る。
らら 「この町って海が見えないんだよね。」
みちはららのセリフをまったく聞いていない。
みち 「あーあ。」
らら 「・・・。」
みち 「あーあ、どうしたらいいのが、わがんね。」
らら 「・・・。」
みち 「ふー。なんだがユウツだー。」
らら 「あたしも」
みち 「分数なんかいらねべした。」
らら 「分数?」
みち 「分数が不幸な子どもを作るんだずー。」
らら 「それはその通り。」
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