青年K、果実L
青年K、果実L
〇登場人物
梶井
病魔
三好
男
友人
第零幕 青年と果実
時計の針の音
開幕
平台上に立つ者、舞台上手で本を読む者、下手で胸ぐらを掴んでいる二人の者達がそれぞれシルエットで映る
台上の男が檸檬を落とす
時計の鐘の音が響く
暗転
第一幕 ある男
大正十数年、京都
男が紙切れを見ながら道を歩いている
転がった檸檬に気づき、拾う
男「檸檬・・・?」
首を傾げて去っていく
通行人「ちょ、ちょっとあなた・・・!大丈夫ですか!?」
梶井「ああ大丈夫、大丈夫だ・・・どうせ俺はもうすぐ死ぬから大丈夫だ・・・。」
梶井、倒れ込む
梶井「何も無い・・・俺は何も成し遂げていない。だがもう死ぬんだろうな。」
咳をする
梶井「・・・おい、いるんだろう。俺をこんなに苦しめといて笑顔で見てやがるんだろう。」
病魔「気づいてたか。」
病魔、ひょっこりと顔を出し梶井に近づく
梶井「そりゃあ。」
病魔「咳、辛そうだね。私がやってるんだけどね。」
梶井「ふざけるんじゃねえよ・・・。俺はまだ何も書けちゃいない。」
病魔「文学かい?そういやこの前も、汽車の中で見つけた女学生に一目惚れして詩を書いていたね。」
梶井「ああ・・・同志社女学校の子だ。ぴっしりと結った髪と軽やかな眉、穏やかな目元のあの子か。」
病魔「名前も知らないのにポエムを渡したんだろ。どうなったんだい?」
梶井「・・・・・・。」
病魔「なるほど。」
梶井「もうだめだ俺は死ぬんだ。」
病魔「あはは弱気になってら。」
三好「おーい、梶井。」
病魔「おっと。」
病魔、隠れる
三好「あ?今誰と喋ってたんだ?」
梶井「俺の中の病魔だよ。」
三好「何言ってんだてめえ。まあいいや、お前最近大学も休んでどうしたんだ。」
梶井「俺はもう死ぬんだ。」
三好「ほーん。まあどうでもいいけどよ。」
梶井「おい。」
三好「この前夏目漱石が大学の近く通ったらしいぞ。」
梶井「は?」
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