例えば、顔の見えない恋から始まる

  葵と先輩、正面を向いている。

先輩 「元カレに連絡したい内容を、俺に送って来い」
葵M 「彼氏と別れて一ヶ月、会社の先輩が言った。返信が来ないと泣く私に、そいつにはもう送るな、と」

  葵、スマホを操作している。
  先輩、スマホを見つめる。

葵M 「その日の夜、先輩へメッセージを送った。《好き》って、それだけ。だけどそれは先輩へのメッセージじゃない。彼氏へ送るはずだった言葉」

  先輩、返信をするためスマホを操作する。

葵  「いいよね、これで……先輩が言ったんだもん、送って来いって……いいのかな? 何か言われたら指が当たったことにしよう、間違えましたって送れば……」

  メッセージの受信音が鳴り、慌ててスマホを見る葵。

葵  「先輩からだ、返信はや……《わかった》って、え? これだけ?」

  悩む葵。
  しばらくして、スマホを操作する。

葵  「ありがとうございます、ってのも変かな? なんて返そう、うーん……違う、そもそも違う。私が連絡したのは、連絡したかったのは先輩じゃなくて彼氏で……違う彼氏じゃない、元カレだ……別れたんだから、昔の彼氏、元カレだ」

  大きく息を吐いた葵、空を見上げる。

葵  「月、綺麗だな……同じ月を見て話をすることはもう、ないんだね」

  涙を拭った葵、正面を向いて。

葵M 「先輩へどう返事していいかわからず、既読無視みたいな形になって終わってしまった。翌日、」

  葵、少し歩いて椅子に座る。

葵M 「会社に行くと、先輩に『正解』と言われた」

  先輩、葵のそばへ来る。

先輩 「正解。昨日みたいな感じでいい、俺を頼ればいいから」

  先輩、葵の肩を叩いて去る。

葵M 「そう言って私の肩に触れた先輩の手が少し震えていて。何故だか、ちょっとだけ、元気が出た」

  葵、正面を向く。

葵M 「正解、これで正解。これが私達の始まり、顔の見えない関係から始まる、恋の物語」

  暗転。

タイトル『例えば、顔の見えない恋から始まる』

  スマホを操作している葵。
  メッセージの送信音。

葵  「《お疲れさま。今なにしてる?》」

  椅子に座っていた先輩、ポケットからスマホを取り出して返信する。
  葵と先輩、二人ともスマホを見ながら喋る。

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