夏目玲子の憐憫
~21gの行方~
 台本あとがきあり。確認は必須ではありませんが気になる方はご参照ください。


夏目玲子:人の心を知りたかった。
夏目玲子:愛憎、憧憬、怨嗟、随喜、悲哀、憤怒、驚嘆、畏怖
夏目玲子:人の心は、知れば知るほど遠のいていく。
夏目玲子:解はなく、その在り様は常に変化し、数多の名を持つ。
夏目玲子:だが、解はなくとも、真実はある。
夏目玲子:心、魂、感情。
夏目玲子:形を持たぬそれらは、それ故に不滅であり、死してなお輝く。
夏目玲子:遺されたものを、時に導き、時に惑わすその光は、確かにそこに在ったのだから。



 階段を上る音
 寂れた鉄筋コンクリート雑居ビル・二階
 埃っぽく、古い紙と煙草の匂い、わずかな酒気が漂っている
 木製のドアを開ける
 ブラインド越しに僅かな陽光が差し込み、規則的な寝息が聞こえてくる

有栖川倫太郎:「うわぁ。また散らかってる。二日前に掃除したばっかなのに。
有栖川倫太郎:玲子さん?玲子さーん?」
 自席で眠っている玲子
有栖川倫太郎:「はぁ。黙ってれば美人なのに」
夏目玲子:(寝息)
有栖川倫太郎:「玲子さん!起きてください。今日はこの後、眞道さんが来る予定でしょ?
有栖川倫太郎:少しは部屋片付けてくださいよ」
 倫太郎、ブラインドを上げる
夏目玲子:「んぅ――んん?あぁ、倫太郎君じゃないか。おはよう」
有栖川倫太郎:「おはようじゃありませんよ。もう昼過ぎですよ」
夏目玲子:「ああ、いやね。昨日はちょっと酒がすすんでしまってね、へへ」
有栖川倫太郎:「まったく。ここ、事務所も兼ねてるんですよね?こんなんじゃ応接なんて出来ないじゃないですか」
夏目玲子:「だからいつもは下の喫茶店で話を聞いてるんだが、君をバイトに雇ってからはここを使えて大変満足しているよ」
有栖川倫太郎:「喫茶店でって。仮にも探偵への依頼なんだからプライバシーとかあるでしょふつう」
夏目玲子:「構わんさ。どうせ客なんてほとんど来なくて閑古鳥が鳴いてる店だからね」
有栖川倫太郎:「はぁ。とりあえず顔でも洗ってきてください」
夏目玲子:「んー。灼が来るまでまだ少しあるな。シャワーでも浴びることにしよう」
有栖川倫太郎:「そうやってぎりぎりまで時間を潰して、掃除を丸ごと僕にやらせるつもりですね」
夏目玲子:「なかなか鋭いじゃないか。さすが私のワトソン君」
有栖川倫太郎:「茶化してないで、さっさとしてください」
夏目玲子:「承知した。―――覗いてもいいよ?」
有栖川倫太郎:「覗きませんよ!」
夏目玲子:「あっはっは」
 別室脱衣所へ消える
有栖川倫太郎:「ほんと、残念美人なんだから。っと。早く片付けなきゃ時間になっちゃう。
有栖川倫太郎:これはこっち。これはゴミに出してっと」
 掃除に取り掛かる倫太郎

 適度に間

 ノック音
有栖川倫太郎:「あっはーい!」
眞道灼:「おや、有栖川君か。こんにちわ」
有栖川倫太郎:「眞道さん。こんにちわ。予定より少し早いですね」
眞道灼:「玲子のことだから、どうせ時間通りに来ても予定通りには行かないからね」
有栖川倫太郎:「あはは。流石、よくご存じで」
眞道灼:「まあでも、有栖川君が来てくれて良かったよ。少しはマシになったようだ」
有栖川倫太郎:「だといいんですけど」
眞道灼:「本当さ。前までは約束を反故にして姿をくらませることも珍しくはなかったし、この事務所は足の踏み場もなかった」
有栖川倫太郎:「足の踏み場に関しては今でも気を抜けばあっという間に元通りですよ」
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