薔薇の魔女
シエル:(M)深く暗い森の奥。
シエル:迷いの森と呼ばれるその奥には、薔薇に一年中囲まれた館がある。人も獣すらも近寄らない、更には見えても辿り着けない不思議な館に住むのは、二目と見れない醜い魔女なのだという…


シエル:う…うぅ…アナ…
カーディナル:…気が付いたか
シエル:う…誰…いっ…つぅ…!
カーディナル:動くな、傷が深い
シエル:体が…焼けるようだ…
カーディナル:熱も高い、動こうとするんじゃない
シエル:ここは…
リリー:私の館です。貴方は森の中に倒れていたの、覚えがある?
シエル:…森…あぁ、そうだ…なにかに、襲われた…
カーディナル:恐らく森の魔獣だ。毒を持つものも多い。見た所狩人でも無さそうだな、なんでまたあんな所に…
リリー:カーディナルが貴方を見つけたの。…カーディナルと言うのはさっき喋った男の子よ
シエル:あぁ…ありがとう…
リリー:もう少し眠った方がいいわ。傷が癒えるまでは大人しくしていて頂戴ね
カーディナル:今は眠れ。そして傷を癒してさっさと出ていってくれ
シエル:…すまない…(眠りに落ちる)
カーディナル:…リリー様、この様な得体の知れない者、手当だけして街に送り届ければ良かったのでは?今からでも僕が…
リリー:ダメよ。手を出した以上は最後までちゃんと責任を取らなくちゃ
カーディナル:しかし、この者が危害を加えてこないとも…!
リリー:心配症ね。大丈夫、その時はカーディナルが守ってくれるでしょ?
カーディナル:勿論です
リリー:それなら何も心配ないわ。それに…
カーディナル:?
リリー:きっとこの人は悪い人じゃない。長年の勘がそう言ってるの。だから大丈夫。
リリー:さぁ追加で薬を作った方が良いわ、手伝ってくれる?
カーディナル:かしこまりました…

シエル:(M)全身を巡る驚く程に熱い血の流れにうなされながら、私はいくつもの夢を見た。どれも支離滅裂で恐ろしい物ばかりだったが、時折眠りが浅くなった時、額に触れる冷たい柔らかな手の感触と甘い香りが心地良く、私の意識を深い眠りへと誘う。その時は心ばかり穏やかな夢を見ていた様な気がした


シエル:ん…
リリー:目が覚めた?
シエル:…ここは…
リリー:私の館。同じやり取りをしたのを覚えてる?
シエル:あぁ…そう、だったな…(体を起こそうとする)うくっ…!
リリー:何日も寝ていたんだから、無理はしないで。体が動かないでしょう?少しずつ動いていけばいい
シエル:何も、見えん…
リリー:…毒が、目に入ってしまったのね。痛みはある?
シエル:痛みはないが…
リリー:光は?分かるかしら?
シエル:…深い霧の中にいるようで…明るいのは、何となく
リリー:体の傷はかなり良くはなってるけど、まだ完全に癒えてない。少しづつ体を動かしながら治療に専念して

(ドアのノック音)

カーディナル:失礼しま…リリー様!
リリー:大丈夫よ、カーディナル。体をようやく起こしただけなんだから
カーディナル:もう起きれるようになったなら…
リリー:(窘めるように)カーディナル
カーディナル:…申し訳ありません…
リリー:ごめんなさいね、賑やかで。
リリー:…光が分かるなら、きっとまた見えるようになる。治療を続けましょう
シエル:貴女は…医者か?
リリー:違うわ
カーディナル:リリー様は薬学に造詣が深いんだ。そこいらの医者と一緒にするな
リリー:…カーディナル
カーディナル:す…すみません…
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